実行

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「ふぅっ」 スマホに打ち込んだ文面をもう一度確認して、ゆっくりと頷く。 これで、いい。 決断が鈍らないように、スマホの電源を落とす。 自分の部屋を見渡す。 部屋には少し高めの椅子、そしてテーブル。 その上には縄や睡眠薬の入ったビニール袋と茶色い封筒。 封筒には他の家具を売り払ったお金と、僕の貯金が入っている。 ある程度の額にはなるだろう。 「これからのすとぷりの活動のために使って。」 そう書いたメモも入れておいた。 でも、なーくんのことだから、きっと使わないんだろうな。 タピちゃんは嘘をついて両親に預けた。元気にしてるかなぁ、タピちゃん。 やり残したことは、、、、ないと言えば嘘になるけど。 みんな、悲しむかな… この考えを頭から追い出すように僕は首を横に振る。 やめておこう。これ以上考えるのはダメだ。 テーブルの上のビニール袋に手を伸ばし、中から縄を取り出す。 とりあえず適当に結んではみたものの、全然イメージ通りにできない。 何度も結び直すけど、うまくいかない。 仕方がない。スマホで調べるか。 もう開かないと思っていたスマホをもう一度手に取り、電源を入れる。 🔍自殺 ロープ むすb プルルルルル 突然、僕の手のなかにあるスマホが震えた。 着信画面には…相棒の名前が。 出るか迷ったけれど、ここで出なくて家に来られでもしたら困る。 ピッ 「……はい」 さ「あ、ころん?今から一緒にゲームしねぇ?」 「…ごめん、無理。」 さ「なんでよ!あっ、ごめん今忙しかった?」 「…うん。ごめん。ってか、なんで?」 さ「いや?急に声聞きたくなっただけ。」 「…そっか。」 沈黙が続く。 こ「っあのさ、」 はっ、僕は今、何を言おうとした? さ「…ころん?大丈夫か?」 「……っごめん、やっぱなんでもない!じゃあね、さとみくん!」 精一杯元気な声で答える さ「…おう。じゃあな。」 ピロン 怒らせちゃったかな。 でも、最期に声が聞けてよかった。 今度こそ。 サイト通りに縄を結ぶと、何度か失敗はしたものの、簡単に結ぶことができた。 それを天井に嵌めたフックにかける。 あとは、僕がこの椅子から一歩踏み出すだけ。 それだけなのに、 今になって膝がガクガクと震え出す。 くそっ、動けよ、僕の足。 動け動けと頭で命令するが、その指令は全く足に伝わらない。 僕はヘナヘナと力なく椅子に座り込む。 決めたんだろ、ころん。 できるさ。何も難しいことじゃない。 この永続的な苦しみからは解放されるためなんだ。 自分に言い聞かせ、ようやくまた立ち上がるまでにひどく時間を要してしまった。 目の前にあるゆらゆらと揺れる縄に手をかけ、自分の首を通す。 大丈夫。できる。 僕はきつく目を瞑って、大きく一歩を踏み出した。 「ガッ…ハッ……」 フラッシュバックのようにたくさんの人の顔と思い出の数々。 走馬灯というやつだろう。 小学生の頃の記憶、中学生、高校生、大学生、そしてすとぷりメンバーとしての記憶。 断片的に頭の中で再生される。 お母さんとお父さんの顔 すとぷりメンバーの顔 最後には、相棒の顔が。 みんな、ありがとう。大好きだった。 そこで、僕の意識は途切れた。 最期に僕の大好きな声が聞こえた気がしたけど、気のせいだろう。
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