桜を嫌う僕に小さな贈り物

1/9
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 また今年も学校の校門で満開の桜が咲いた……。時間は流れる。でも心は晴れない。  あれからもう二年になる。高校受験が終わり、中学卒業の時に彼女は俺に言った。  『引っ越す事になるの。だから……ごめんなさい。』  俺と交際していた彼女は別れる事になり、それっきり連絡も無い。あの頃も桜は満開だったな。  この時期になると別れた彼女を亜桜 由月(あざくら ゆづき)を嫌でも思い出してしまう俺は未練がましい情けない男なのかもしれない。  「ねぇ、あなたは桜は好き?」  「え……」  校門の前で満開の桜を見て物思いにふけっていた時、声のした方を見ると薄ピンク色のサラサラヘアーの長い髪をした女子高生が立っていた。初めて見る娘だ。  「どうなの。桜は好き?」  「どうなんだろう。今は嫌いかもしれない」  それ以上はあまり言葉を続けたくない気持ちになり、俺は校内へと足を運んで名前も知らぬ彼女から去った。  キーンコンカンコーン。昼休みのチャイムが鳴り、昼食の準備をしていると……  「ねぇ、慎吾ー。最近リトリに新メニュー出たらしいんだけど、放課後食べに行かない?」  「俺今そう言う気分じゃないんだよな」  こいつは麻泉 恋心(まいずみ ここ)、一応幼馴染だが保育園から小学、高校まで同じになっている。ちなみに俺が由月と別れた事も知っている。そしてリトリはファミレスの名前。  「行ってやれよ、慎吾ぉ。恋心は慎吾と新メニューを食べたいんじゃなく、二人きりで行く空気を味わいたんだぜ? その為のきっかけが新メニューだってだけでよ」  こいつは阿賀巳 璃月(あがみ りつき)、こいつも幼馴染だが、まあ腐れ縁だ。  「ちょっと! 違うってば! ばか璃月っ変な妄想加えないでよっ慎吾違うからー」  「璃月も恋心も元気だな」  俺は朝コンビニで買った昼飯の弁当を持ってちょっと席を外し、屋上に向かう。  ギィィ。屋上の扉を開けて適当に座り、景色を見ながら憂鬱な気を晴らし、一人昼飯にする事にした。  「ここの景色は変わらないな」  そして午後の授業も終え、今日は幼馴染の奴らとは一緒に帰らず、一人で帰宅する。  「ただいまっ……と」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!