Side A - 運命

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Side A - 運命

「これが運命ってやつだと思ったね」  間接照明で淡く照らされた室内。木製の重厚な扉。  その扉を一歩出ると、『Bar Siren』『closed』という2つのネオンサインがレンガ調の壁面に掛けられている。 「その言葉あと何回聞けばいい?」  茶髪というには明るすぎる前髪を鬱陶しそうにかきあげ、男は水滴が滴るグラスを真っ白な布で拭った。 「いや、だってそう思わない?まず第一に黒髪ショート。そしてあの身体の小ささに似合わない巨乳」 「それだけ聞いたらただの最低野郎だね」  そんな言葉など気にする素振りもなく、センターパートの黒髪の男は続ける。 「顔だけじゃなくて服の感じもタイプで俺の理想そのものなのに、趣味も合うし料理もうまいし、極めつけは・・・」 「名前が同じ」  茶髪の男は呆れたように言い、黒髪の男の言葉を遮った。 「優、もういい加減聞き飽きたって。そんな奇抜な名前じゃないんだし、同じ名前の人くらいいるでしょ。それよりそこのテーブルまだ汚れてない?」  優と呼ばれた黒髪の男は、話の腰を折られてもなお話を止める気配はない。 「いや、だって冷静に考えてみてよ。清水優ってフルネーム同じなんだよ?趣味も好きなものも嫌いなものも同じだし!」  興奮覚めやらぬまま、清水は声楽家さながらの声を室内に響き渡らせた。 「これを運命と呼ばずしてなんと呼ぶんだね、前田君」 「でも付き合って4ヶ月経つのに、まだ向こうの家に1回も行ってないんでしょ?」 「いや、それは・・・まぁそうだけど」  不意に突きつけられた事実に清水は言葉を詰まらせる。  そこにトドメを刺すように前田は続けた。 「本当は彼氏持ちか、もはや既婚者か・・・。お前、騙されてるんじゃない?」 「そんなわけないだろ!優はそんな子じゃないから」  2人の運命の出逢いを否定されただけではなく、優を悪く言われたことが相当気に障ったのだろう。  清水は表情を曇らせたまま 「くだらないこと言ってないで早く終わらせて帰ろう」  と冷たく言い放った。 「はいはい。どうせこれから優ちゃんと会うんでしょ?"優"の家で」  前田は清水の機嫌を取る素振りも見せず、皮肉めいた笑みを浮かべバックヤードへと消えて行った。
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