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Side A - 疑念
終電時刻も過ぎ、人影もまばらな駅前通り。
それでも駅から徒歩2分に位置するコンビニエンスストアの店内にはパラパラと人の姿があった。
その中に雑誌コーナーに佇みながら外を見つめる優がいた。
じっと外を見ていた優だったが、何かに気が付くと小走りで外へと飛び出す。
少し走るだけで、身長150cmそこそこの華奢な身体には似つかわしくない大きな胸の膨らみが揺れる。
「優くんお疲れ様」
小走りで向かった先には、同じく小走りでコンビニエンスストアに向かっていた清水がいた。
「ありがとう。ちょっと遅くなってごめんね、優」
「ううん。気にしないで。もういろいろ買っておいたから早く行こう?」
優は上目遣いで清水の顔を覗き込むと、そのままその上着の裾を小さく掴む。
(可愛い)
素直にそう思う気持ちとは裏腹に、前田の言葉が清水の頭の中で反芻していた。
-本当は彼氏持ちか、もはや既婚者か。とにかく、騙されてるんじゃない?-
(いや、そんなはずない。優はそんな子じゃない)
-付き合って4ヶ月経つのに、まだ向こうの家に1回も行ってないんでしょ?-
(それは、きっと何か事情があるだけで・・・とにかく、俺は騙されてなんかない)
「優くん?」
「あ・・・あぁ、ごめん」
「どうしたの?なんか考えごと?」
そう言って優は両手で清水の頬を優しく包んだ。
清水はそれを包み込むように自分の手を重ねる。
「家、行きたい」
優は頷き
「そうだね。早く帰ろうっか」
と微笑んだ。
「そうじゃなくて・・・」
「ん?」
「優の家に行きたい」
「・・・え?」
優は目に見えて動揺していた。
「やっぱり俺になんか隠してることあるの?」
「・・・ないよ」
「俺だってこんなこと言いたくないけど・・・思いたくないけど・・・。俺のほかにも誰か男いる?」
「それは絶対にない」
優はハッキリと答えた。
しかし清水は優の返答に満足する様子はなく、むしろ不満気でもあった。
「じゃあ何で?」
暫くの間静寂が流れた。
静寂が支配する中で、優の後方にあるコンビニエンスストアの自動扉の開閉音が時折聞こえてくる。
遠くでは大通りを走る車のエンジン音が響いていた。
1分ほど経った頃-とはいえ清水にとっては5分にも10分にも感じられる長い時間だったが-その沈黙を破ったのは優だった。
「優くん。私の家、来る?」
そう言った優の瞳は力強く、しかしどこか不安そうにも見えた。
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