Side A - 疑念

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 玄関を入ると、目の前に短い廊下とその左右には引き戸式の扉があった。  外観から想像していた通り内装も綺麗で、白いフローリングには汚れひとつ見当たらなかった。  左手の扉は完全に開かれており、洗面台と洗濯機が見えている。  右手の扉は閉まっているものの、おそらくトイレだろう。 「じゃあ、お邪魔します」  清水は遠慮がちに頭を下げ、優の家へと足を踏み入れる。  洗面所の前を通り過ぎる際、清水は優に気付かれないよう何気ない素振りで中を覗いた。 -歯ブラシは1つだけ -置いてある洗濯物も優のものだけ・・・だな  廊下の突き当たりにある扉を開け、優は 「ワンルームだから狭いけど・・・」  と小さく呟いた。  部屋は綺麗に片付けられており、ベッドとローテーブル、小さめのテレビや本棚などが置いてあるだけだったが、8畳ほどの空間の中では圧迫感すらあった。 「ソファなくてごめんね。適当に座って」  優は申し訳なさそうに小さく笑った。  清水はテレビに向き合う形で、ベッドとローテーブルの間の空間に腰を下ろした。 「優くん何飲む?ビールと酎ハイはさっき買ったのがあるけど・・・あっ!冷蔵庫にワインもあるよ」  清水が座っている位置からは、カウンターキッチンの後方にある冷蔵庫は微かに見えるだけだった。 「じゃあ折角だしワインもらってもいい?」 「もちろん!ちょっと待ってて」  そう言い、優はキッチンへと向かった。  優が目を離している隙を狙い、清水は辺りを入念に観察する。  テーブル上にもテレビ横の本棚にも特に気になるものはない。 (ん?なんだろう?)  テーブルの下に紙のようなものがあった。  清水はクリーム色がかった長方形の紙を拾い上げる。 (電気料金の払込用紙か)  一見すると何の変哲もない払込用紙だったが、清水はすぐに不可解な点に気付いた。 (加藤奏・・・誰だ?)  そこには確かに『加藤奏』という名前が記載されていた。 (加藤・・・カナデ?いや、加藤・・・ソウ?) (どういうことだ?ほかに同居人がいる?) (いや、でもそんな感じはしないし・・・)  あれこれ考えを巡らせるものの、清水にはさっぱり訳がわからなかった。  そこで、清水はそれとなく探りを入れることを決めた。  少ししてから「お待たせ〜」という明るい声とともに、優がワインボトルとグラスを2つ持って来た。  清水はあくまでも紙に記載されている内容までは見ていない体で 「テーブルの下に落ちてたよ」  とごく自然に払込用紙を優に手渡す。 「あっ・・・あ、ありがとう。テーブルの上に乗せてたのが落ちちゃったのかな」  優は素早く清水からそれを受け取り、ハハっと笑った。  その姿は懸命に平常心を保とうとしているように見えた。 (やっぱり何か隠してる)  そう清水は確信した。  優の反応からして『加藤奏』が関係しているのは明らかだった。
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