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30分ほど経っただろうか。
清水の頭の中は相変わらず『加藤奏』のことでいっぱいだったが、努めて平静を装っていた。
何気ない会話が続く中で、本棚に収納されているあるものが清水の目に映った。
「お!卒業アルバムじゃん!」
そう言って清水が手を伸ばそうとした瞬間
「だめ!!」
と大きな声が部屋に響いた。
あまりの剣幕に、清水の動きが止まる。
「あっ・・・えっとその・・・昔の私メイクもしたことなかったし、可愛くないから。恥ずかしいから見ないで」
「ご・・・ごめん」
清水は先ほどの優の勢いに圧倒されたまま、弱々しく呟いた。
しかし、それと同時に優の隠しごとのヒントが卒業アルバムにあるのではという疑念を抱いた。
部屋には何とも言えぬ雰囲気が漂う。
気不味さを紛らわすためか、優は
「ちょっとお手洗い行ってくるね」
と部屋をあとにした。
(今しかない)
そう思うや否や、清水は優の中学校の卒業アルバムを開いていた。
優が通っていたのは小さな中学校だったのだろう。30人ほどの顔写真が見開きで並んでいる。
(佐藤佳織、嶋田春香、多田梨花)
(佐藤愛里、佐藤ひな、須田美乃梨)
「あれ・・・?」
2クラス分、全員の顔写真に目を通した清水だったが、どこにも『清水優』の名前はおろか姿も見当たらなかった。
(じゃあ加藤奏は?)
清水はハッとしてもう一度アルバムに目を落とす。
(大谷由里、加藤・・・奏!)
(あれ、この顔・・・)
『加藤奏』の名前には全く覚えがないのにもかかわらず、写真に映る『加藤奏』にはどこか見覚えがあった。
「あ!」
清水は手元のアルバムを床に放り投げると、
続けて高校の卒業アルバムを開いた。
(加藤奏、加藤奏・・・いた!)
「やっぱりそうだ・・・」
3年1組と書かれているページには、確かに見覚えのある顔があった。
ふと3ヶ月前の前田との会話が思い出される。
-あといつも左端に座る子・・・はどうなんだろ-
-左端?-
-えーっと・・・肩よりちょっと長めの暗い茶髪で、なんかあんまり冴えない感じの・・・-
とは言え、清水はこの状況を理解できなかった。
(どういうことだ?)
(優と加藤奏・・・なんの関係が?)
(知り合い?いや・・・・・・)
(優が加藤奏?)
「優くん?」
突然、背後から優の声が聞こえた。
「あっ・・・」
清水は顔を引き攣らせながら振り返る。
しかし、優と目が合うことはなく、その目は清水の手元にあるアルバムをじっと見つめていた。
「見ちゃだめって、言ったよね?」
優は清水を見下ろしながら言った。
清水はアルバムから手を離すと、両手を床に着きながら後退りをする。
しかし、小さな部屋ではそれほど優と距離を取ることはできず、すぐに壁へと突き当たる。
「どうしたの、優くん?」
微かな笑みを浮かべ、優は清水のほうへと一歩踏み出す。
「来ないでくれ」
「どうしてそんなこと言うの?」
そう言い、優はまた一歩踏み出す。
「優・・・いや、誰なんだお前・・・」
「誰って、優は優だよ?」
「嘘だ・・・加藤・・・奏?」
『加藤奏』という言葉に優はピクッと反応を見せた。
優はそれ以上何を言うでもなく、ただただにったりと微笑んだ。
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