詐病

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★ サイレンの音が遠ざかる。犯人は逮捕され、警察に連行されていった。 前田は自白を記録したレコーダーを再生しながら思う。 もしも西成先生が悪人だったなら、どれだけ完璧に人を騙せてしまうのだろうか、と。 西成の底知れない度胸と緻密な策略は、今日味わった恐怖を霞ませてしまうほどだ。 その西成が優しさを取り戻した目で前田を見る。 「前田さん、 今回は大変でしたが、事なきを得て幸いでした」 「いえ、西成先生が身代わりになってくださるなんて、心底申し訳なかったです……」 「しかし、よく私の意図に気づいてくれましたね。賞賛されるのはあなたの方です」 けれど、賞賛以上に『私の大切な秘書』と言ってくれたことが嬉しかった。一人前だと認めてもらえた気がしたのだ。 「あと、彼の洞察力も素晴らしかったです」 振り向くと、池上が上機嫌で、解決の立役者である坂崎の肩に手を回している。 「坂崎、俺はお前と同じ医局員だったことを誇りに思う。だから今日は俺がおごるぞ。旨いもの、好きなだけ食わしてやる!」 これこそチームワーク最高のスタッフの姿だなぁ、と前田は感心する。 ところが当の坂崎はしらけた表情で塩対応。 「いや、俺今日デートなんで勘弁してください。千載一遇のチャンスなんすから」 笑顔を崩さない池上のこめかみには、隆々とした青筋が浮かび上がる。 その場で繰り広げられた不揃いなふたりの戯れ合いを、西成と前田は苦笑しながら眺めていた。
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