24人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
★
サイレンの音が遠ざかる。犯人は逮捕され、警察に連行されていった。
前田は自白を記録したレコーダーを再生しながら思う。
もしも西成先生が悪人だったなら、どれだけ完璧に人を騙せてしまうのだろうか、と。
西成の底知れない度胸と緻密な策略は、今日味わった恐怖を霞ませてしまうほどだ。
その西成が優しさを取り戻した目で前田を見る。
「前田さん、 今回は大変でしたが、事なきを得て幸いでした」
「いえ、西成先生が身代わりになってくださるなんて、心底申し訳なかったです……」
「しかし、よく私の意図に気づいてくれましたね。賞賛されるのはあなたの方です」
けれど、賞賛以上に『私の大切な秘書』と言ってくれたことが嬉しかった。一人前だと認めてもらえた気がしたのだ。
「あと、彼の洞察力も素晴らしかったです」
振り向くと、池上が上機嫌で、解決の立役者である坂崎の肩に手を回している。
「坂崎、俺はお前と同じ医局員だったことを誇りに思う。だから今日は俺がおごるぞ。旨いもの、好きなだけ食わしてやる!」
これこそチームワーク最高のスタッフの姿だなぁ、と前田は感心する。
ところが当の坂崎はしらけた表情で塩対応。
「いや、俺今日デートなんで勘弁してください。千載一遇のチャンスなんすから」
笑顔を崩さない池上のこめかみには、隆々とした青筋が浮かび上がる。
その場で繰り広げられた不揃いなふたりの戯れ合いを、西成と前田は苦笑しながら眺めていた。
最初のコメントを投稿しよう!