詐病

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詐病

東山総合病院の『診療部門特別相談室』では、うら若き秘書の前田美穂が深いため息をついていた。 「病院でこんな事件が起きるなんて、いったい誰の仕業なんでしょう」 尋ねた相手は部屋奥のデスクに鎮座する中年男性。名は西成仁。医療トラブルを片っ端から解決してゆく敏腕医療弁護士である。 西成は竹製のペーパーナイフを懐にしまうと、封筒から取り出した手紙を前田に向けて見せる。 「どうやら、こちらもその件での苦情のようです」 院内では、三か月の間に十件以上の窃盗事件が発生した。高齢の入院患者が狙われ、財布の中から現金が抜き取られていた。 大胆不敵にも深夜に病室に侵入し、患者が持っていた鍵で金庫を解錠しているのだ。 「ところで依頼していたエレベーターホール前の防犯カメラ、解析結果はどうでしたか」 「先ほど返事が来ましたが、窃盗が発生した日の夜、病棟に出入りしている不審者はいませんでした」 「そうなると犯人はおおむね絞れますね」 前田は西成の言わんとしていることを察し、表情をこわばらせた。 「入院患者か医療従事者ということですね。たしかに苦情の中には、犯人が院内関係者じゃないかと言う指摘もありました」 「疑われたままでは病院の沽券に関わります。――そこで前田さんにお願いですが、被害が発生した病棟と、その時に入院していた患者を照合してもらえませんか」 「わかりました。すぐに解析します」
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