20人が本棚に入れています
本棚に追加
龍馬さんが入った後で風呂に入らせていただく。
やっと汚れた旅姿を解き、体を綺麗にすることが叶う。本当に有難いことである。
風呂に浸かりながら、考える。
恐らく、龍馬さんは当てもなくここに世話になるだろう。体の良い居候である。
だとすると、わたしは、今こそ乙女様に報告書を送らねばならないだろう。
ちゃぷん。
天井から湯船に水が落ちる。
格子戸から秋の風が吹き込み、湯船にはさざ波が立った。
乙女様。
お元気だろうか。
「かあーかあー」
千葉道場の屋根に止まっているのだろう。カラスの海の声が聞こえてくる。
海の足に文を結び、土佐まで飛んでもらうか。
そう考えたが、いや、それはやめようと思いなおした。
この旅は、海にとっても苛酷なものだったのに違いない。ただでさえ老齢になってきているのだ。少し休んでからならともかく、今すぐ海を土佐に飛ばすのは気が進まなかった。
湯船からあがり、たらいに湯を組む。
きみ姉ちゃんにもらったドーラン落としを使い、以蔵君似の化粧を落とした。
肌にぬりたくったものがやっと落ちた。思えば、旅の間、肌を綺麗にしたことがなかった。変装を落とすと、すがすがしくてたまらなかった。ぺたぺたと素肌を触り、ああ、自分の顔だと思う。
たらいの水面に顔を映したら、そこには、目の大きな女の子がこちらを見つめていた。
さな子さんより、美人かもしれない。
(まあ、すぐまた変装するんだけどさ)
じゃぷんと湯船につかり、脚をよくもんだ。
一回、土佐に戻ろう。
どうせ、龍馬さんはしばらくここから動けまい。というか、ここより他に行けないだろう。
ごはんができましたよー。
さな子さんの声が遠くから聞こえてくる。
**
最初のコメントを投稿しよう!