第三部 嵐の前

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 龍馬さんが入った後で風呂に入らせていただく。  やっと汚れた旅姿を解き、体を綺麗にすることが叶う。本当に有難いことである。    風呂に浸かりながら、考える。  恐らく、龍馬さんは当てもなくここに世話になるだろう。体の良い居候である。  だとすると、わたしは、今こそ乙女様に報告書を送らねばならないだろう。  ちゃぷん。  天井から湯船に水が落ちる。  格子戸から秋の風が吹き込み、湯船にはさざ波が立った。  乙女様。  お元気だろうか。  「かあーかあー」  千葉道場の屋根に止まっているのだろう。カラスの海の声が聞こえてくる。  海の足に文を結び、土佐まで飛んでもらうか。  そう考えたが、いや、それはやめようと思いなおした。  この旅は、海にとっても苛酷なものだったのに違いない。ただでさえ老齢になってきているのだ。少し休んでからならともかく、今すぐ海を土佐に飛ばすのは気が進まなかった。  湯船からあがり、たらいに湯を組む。  きみ姉ちゃんにもらったドーラン落としを使い、以蔵君似の化粧を落とした。  肌にぬりたくったものがやっと落ちた。思えば、旅の間、肌を綺麗にしたことがなかった。変装を落とすと、すがすがしくてたまらなかった。ぺたぺたと素肌を触り、ああ、自分の顔だと思う。  たらいの水面に顔を映したら、そこには、目の大きな女の子がこちらを見つめていた。  さな子さんより、美人かもしれない。    (まあ、すぐまた変装するんだけどさ)  じゃぷんと湯船につかり、脚をよくもんだ。    一回、土佐に戻ろう。  どうせ、龍馬さんはしばらくここから動けまい。というか、ここより他に行けないだろう。  ごはんができましたよー。  さな子さんの声が遠くから聞こえてくる。 **
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