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本棚に追加 彼の意識が久しぶりにしゃんとしていた。死ぬ間際とは思えない、爛々とした目でおかしなことを言うのだった。
「あの場所に行けばいつでも会えるだろう」
「おかしなことを言うのね」
冗談じゃないと思った。いつまでも彼に幻想を見せる桜を、私はすっかり嫌になってしまった。
彼は私を見つめて目を細めた。重ねられた手もいつもより力強いように感じた。彼は憎らしいほどに私の全てを知っている。
「春の匂いがするね」
彼はすんと息を吸った。窓際で揺れる一枝の桜は、もしかしたら彼の視界にも映っているのかもしれない。私はその桜を恨めし気に見た。
「私はひどい女なの。あなたに少しでもあの枝を与えたくないのよ」
彼は吸った息を吐く様に笑った。
そうしてやがて、静かに目を閉じたのだった。二度と覚めないその瞼に、淡い紅色の花びらがそっと降り落ちた。

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