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  彼の意識が久しぶりにしゃんとしていた。死ぬ間際とは思えない、爛々とした目でおかしなことを言うのだった。   「あの場所に行けばいつでも会えるだろう」   「おかしなことを言うのね」   冗談じゃないと思った。いつまでも彼に幻想を見せる桜を、私はすっかり嫌になってしまった。   彼は私を見つめて目を細めた。重ねられた手もいつもより力強いように感じた。彼は憎らしいほどに私の全てを知っている。   「春の匂いがするね」   彼はすんと息を吸った。窓際で揺れる一枝の桜は、もしかしたら彼の視界にも映っているのかもしれない。私はその桜を恨めし気に見た。   「私はひどい女なの。あなたに少しでもあの枝を与えたくないのよ」   彼は吸った息を吐く様に笑った。 そうしてやがて、静かに目を閉じたのだった。二度と覚めないその瞼に、淡い紅色の花びらがそっと降り落ちた。

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