怪盗サクラ

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 怪盗サクラは神出鬼没だ。  風のように現場に現れては、風のようにお宝を奪って去って行く。  そして、警察をあざ笑うかのように、桜のハンコが捺印された一枚のペーパーを残して、去って行く。桜のハンコの横には、少しだけ丸みがかった筆跡で、completedという文字。  これだけの証拠を残していっているにもかかわらず、警察はまんまと逃げられ、容疑者も絞り切れない有り様だ。  ただ、桜のハンコを押していくことから、警察内部では、怪盗サクラという通称が定着した。  あと、丸みがかったcompletedという文字から、怪盗は女性ではないかという憶測が流れた。  とにかく、怪盗サクラによる窃盗事件はついに二桁を越え、被害総額は五千万を越えた。  マスコミは警察の対応のまずさをあげつらい、無能な警察を揶揄した。  それに反して、怪盗サクラの鮮やかな窃盗ぶりに、SNS上では賛美の声があがった。  盗犯係りの主任、宮本は怪盗サクラの現場を嫌というほど、経験した。  金庫は破られ、金目のものはすべて持って行かれた。そして、お約束の桜の捺印されたペーパー。それ以来、宮本は桜が嫌いになった。警察内部の盗犯係りの花見の集まりには足が遠のくほどだ。  怪盗サクラが狙う資産家たちには、ある特徴があった。被害者はいずれも、脱税目的やマネーロンダリング目的で買われた骨董品や美術品を盗まれていた。つまり、正規の手続きを踏まれないで購入した物品が、ターゲットになる。それは偶然なのか、それとも、怪盗サクラの狙いなのかわからない。だが、窃盗は罪だ。怪盗サクラはSNS上で賛美されても、悪党である。  宮本はそんな悪党を野放しにする気はなかった。この手でお縄をかけて、二度と桜のハンコを押させない。
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