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「魔法、使えるんですか?」
「ええ。もちろん。」
「ずっとここにいるんですか?」
「そうね。五十年ぐらい前からかしら。ここはゆったりしているから素敵よね。自然が豊かで、いろんな動物が暮らして、いろんな植物が生きている。心地いいわね。」
「ここに来た人間はわたしで何人目ですか?」
「細かくは覚えていないけれど、十人目ぐらいじゃないかしら。他の人達はみんな逃げ帰ってしまったわね。あなたは怖くないの?」
「はい、どうしてなのかは分からないですけど。なんだか、魔女だからって逃げ出すにはもったいないような気がして。」
「あら、嬉しい。ありがとう。」
「いえ。ここで暮らして不便はないんですか?」
「魔法でなんとかしているから、大丈夫ね。電気も水もガスも通っているし、食料は山からもらうことが多いかしら。たまに隣町の商店街に行くんだけど、それがすごく楽しいの。いつも面白いものがいっぱい揃っているのよ。行ったことある?」
「ないですけど、気になります。」
「いつか行ってみてね。」
「はい。あの、魔法でこの町を乗っ取ったり人を殺したりできるんですか?」
「・・・・・・しないわよ?」
「できるんですね?」
「・・・・・・まあ、ねえ。けど、そんな使い方はしない。ナンセンスで、私の信条に反するわ。」
「信条、ですか?」
「ええ、穏やかに和やかに、よ。そうすれば大抵のことは大丈夫。自分のそれを壊そうとしてくる人がいるなら、すぐに離れたほうがいいわ。」
「・・・・・・なるほど。あ、そういえば、お名前知らないです。」
「ふふ、秘密。」
「え、どうして?」
「さあ?魔女さん、って呼んでね。そう言うあなたのお名前は?」
「松山水です。」
「あら、教えてくれないかと思ったのに。スイちゃんって言うのね。漢字でどう書くの?」
「魔女さん、漢字分かるんですか?」
「分かるわよ。イギリスの魔女は英語が話せるし、中国の魔女は中国語が話せるわ。日本の魔女の私は日本語なんて朝飯前なのよ、ふふ。」
「へえ、すごい。」
「おしゃべりはいったんそこまでにして、ごはんにしますよ。」
わたしが感心していると、黒猫が間に入ってくる。
ぱたぱた、と羽を動かして、食器がたくさん乗ったお盆を簡単に運んでいる。
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