仏の教え

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仏の教え

「幸せとは、何だとお思いですか。」 尼僧はそう問いかけた。 光明子は首をかしげながら 「豊かであるとか、 健康であるとか、 そういうことではないですか? 民百姓から、天皇陛下まで 国を富ませ、 病気をなくすことに 力を注いでおられます。 先の流行り病では、 私の兄弟家族もなくなりましたし、 多くの民もなくなりました。 私も、お寺に寄進したり 仏像な建立など 出来る限りのことを しているつもりです。」 「そうですね。 そういうことも、とても大切なことです。 しかし、 どの様に努力したとしても 人は生老病死、つまり 老いや病死から逃れることは出来ない、 とお釈迦様は教えられています。」 「では、 人は努力しても所詮無駄なのでしょうか。」 「そうではありません。 私もまだ教えを学んでいる 学僧ではありますが、 お師匠様からよく言われるのは、 諦めないことだと。 生きている限り、 色んな事が起きます。 病気や災害、 人の力ではどうしようもないことも。 それでも、 諦めず、出来ることを成してゆく。 負けないこと。 それが、大事だと。 それが、 幸せということなのではないかと思います。」 「私には、難しくてよくわかりません。」と光明子。 「野に咲く花は、 誰にも褒められずとも、 一生懸命美しく咲くではありませんか。 そういうことです。」 「はい…」 「ですが、人ひとりでは弱いので、 こうして励まし合ったり、 お経を読んで学んだり 写経をするのです。」 「少し、分かったような気がいたします。 元正さま、 また、お話を聞かせていただきに来てもよろしいですか?」 「もちろん、またお出で下さい。 それと、ぜひ、畑のお手伝いも。 この頃、だいぶ身体が動かなくて そろそろ、 若い方に引き継がなければと思っております。」 茶を飲み、光明子は帰っていった。 「だいぶお気も晴れたようで、 ようございました。」 「はい、 少しはお役に立てたようです。」 光明子と話せて良かったと 私は思った。 もう、 いつが最後になるか わからぬゆえ…
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