10、東京

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 車のエンジンが。  信号の発する鳥の声が、ひとびとの足音が貴広の耳に戻ってきた。  貴広が力を緩めると、恥ずかしそうに良平が潤んだ瞳をそっと伏せた。 「お前、傘は?」  貴広は腕を良平の腰に回したまま、だが口から出たのはそんな平凡な問いだった。  良平は首を振った。  貴広は「久しぶりだな、東京の梅雨は」と呟いた。
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