11、サクラ咲く

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「こんにちは……あら。イケメンさんがもうひとり増えてるわね」  ゆうこママだった。  ゆうこママは後ろを振り返って言った。 「栗田さん、ライバル出現じゃなくて?」  栗田さんがゆうこママに従いて入ってきた。 「は……我が存在を脅かす新たなエリートサラリーマン、生駒氏。……ママ、仕方ないのですよ。有能な人間は、常に有能な人間を引き寄せるものでして」  栗田さんの闇人格が、また好き放題言っている。  ゆうこママは栗田さんに微笑で応じ、事務仕事をするときの奥のボックス席へ座った。  栗田さんは生駒の隣に座り、ボケてるのかツッコんでるのか、どちらともなく下らないバカ話をのんびり楽しむ。  良平が、ゆうこママのオーダーした、チーズケーキとコーヒーのセットを運んだ。 「お待たせいたしました」 「ありがと」 「あの」  良平がトレイを胸に抱え、テーブルの脇に立ち止まった。 「ん? なあに?」   ゆうこママは良平を見上げた。明かり取りの窓の下、ゆうこママの後れ毛が逆光に光る。 「あの……ありがとうございました。おかげさまで、俺……あの」  ゆうこママは何かを了解したらしく、楽しげにふふと笑った。 「マスターと、仲直りできたのね」  とくにケンカをしていた訳ではなかったが、良平は否定しなかった。貴広とそういう関係にあることも、とくに否定しなかった。このひとに打ち明けたこともなかったが。 「……はい」  良平はひと言ただそれだけ答えた。自分の頬が熱かった。幸せそうに笑ってるんだろうなと自分でも分かった。  幸せに頬を染めて。  良平は腰を折り頭を下げてテーブル席を離れた。  カウンター席では、生駒と栗田さんがバカをやっていて、それを呆れ顔の貴広が止めることもなく眺めている。  もうすぐランチの時間だ。  アイスコーヒーの残量を確かめておかなくちゃ。  良平は真新しい業務用の冷蔵庫を開けた。  カラ……ンと涼やかな鐘が鳴る。  良平は顔を上げて口を開いた。戸口を振り返った貴広の声と重なる。 「「いらっしゃいませ」」
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