きつねつき

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(わたし)依頼(いらい)したわ』 午後二時になる頃だった。 良い形の安い壺をネットで見つけて喜んでいると、今日のお客様がやって来た。 俺は払い師。 悪魔とか怨霊とか妖怪とか。その他諸々に取り憑かれた人を救って差し上げるのが仕事。 訪ねて来るのは少し変わった人ばかり。当然だ、何かに憑かれたと思ってる人が普通でいられるはずがないからな。 しかし、今日の依頼人はスペシャルだった。 「いらっしゃいませ。 ご予約いただいた小池恵子(こいけけいこ)様ですか?」 『(わたし)だわ』 可愛らしいお嬢さんだ。 ワンピースからすらりと伸びた脚が眩しい。 それは良いのだが。 俺は人のファッションをとやかく言うつもりはない。もうおじさんだし、俺が知らないだけで若者の間では流行っているのかもしれないし。 しかし、しかしだ。 その可愛らしい顔を台無しにしている、味付け海苔を貼り付けた様な極太の眉は何なんだ。 そしてその春らしいワンピース。 なぜそれは、新聞紙(しんぶんし)で出来てるんだ? なぜ、なぜ新聞紙(しんぶんし)を着てるんだ? 二度見、三度見した程度では目に映る事実を理解出来ない。俺の目は彼女の体を監視カメラの様に、上から下まで何度も往復した。いや、無理もないだろう。 おっといかん、そんな俺を小池恵子(こいけけいこ)さんは不審な顔で見ている。 断じていやらしい気持ちではなかったが、女性に対して失礼な事をしてしまった。 「す、すみませんイモトさん」 『小池恵子(こいけけいこ)』 「おっと、すみません」 『いいわ。(かお)かわいい?』 謝る俺に、小池恵子(こいけけいこ)さんはにこりと笑う。あらかわいい。 『よろしく。ヤバい、(はや)くしろよ』 「は、はあ」 それにしても。何だかおかしな言葉づかいだが……?
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