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「大丈夫だよ! 僕の方こそごめんね。本当は劇団手伝いたいけど……できなくて」
「いや! それは違う!」
は、はい? 目が飛び出そうになった。ソウヤは悲しそうな顔をしてたのに、すぐにキリッとした顔に戻った。
違う? ど、どういうこと? 思っていた展開にならないみたいで、動揺が隠せない。
「カワジンは劇の中で、声優を目指す役になればいいんだ!」
「待って、わからないんだけど?」
「だから、学芸会の劇、カワジンはカワジンの役をやればいいんだよ! 劇の中で、声優になるってみんなに宣言しよう!」
目が点になる。意味がわからないぞ……。
首を傾げたまま、ソウヤの楽しそうに話す顔を見ていた。
「つまり、本人役で出るってことだ! カワジンの人生を劇にすれば、一石二鳥ってこと!」
な、なるほど……本人役か。劇を見に来ているお父さんに、劇の中で宣言できる。演技なんだけど、それは本心。だから僕にもできる……。
ソウヤはきっと、そう言いたいんだろうな。
「カワジンの物語、面白そうじゃん。どうだ、みこと?」
「うーん……まあ色々脚色は必要だけど、いいんじゃない?」
「だよな! よし、決まりだ!」
決まりだって? また勝手に決めて……ウンザリした表情をしてみるけど、ソウヤは満面の笑みで僕を見ている。
みことちゃんも全然聞いてくれないし……どうしろって言うんだよ。
とにかく、まだ決められないって言って先延ばしにしないと。
「ま、まあ、考えとくよ……」
「いいのかカワジン! それじゃあ一生お父さんの言いなりだぞ! 嫌なものは嫌って言わないと! 劇の中なら勇気を出せる! 舞台は魔法がかかるからな!」
「魔法? よくわからないよ! とにかくすぐには決められない! 僕帰って勉強しなきゃいけないから! じゃあね!」
逃げ出すように、その場から走り去る。学校を飛び出して、そのまま家まで走って帰った。
どうしてあの二人は僕を巻き込むのか。何だよ、魔法って……そんなに簡単な問題じゃないんだ。僕のお父さんを相手にするには、相当な勇気が必要なんだ。
僕に足りないのは勇気……そんなのわかってるよ。
だけど、ソウヤたちの熱意は心から伝わってくる。
あぁ、もう、どうしてこんなことになったんだ……。
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