1. 謎の小劇団

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 ……待って、この子は何を言っているんだ?  まずこの涙、演技で出してるわけじゃないのに。  泣き虫な僕を、まだこの二人はわかっていない。だから、演技だと思われたんだ。こんなことで泣く人なんて、僕意外いないはずだから。  理解ができずに何も言えないでいると、女の子が初めて僕に話をしてくれた。 「ボルドは二人しかいないの。ソウヤはあと一人増やして演技したいって言ってて……だから助けてあげて」  そ、そんなこと言われても。僕にそんな勇気ないし。  何より、勉強しろってお父さんに怒られるに決まってる。だから声優になりたいってことも言えていないんだ。  ハッキリと断らないといけないのに……断りたくない自分がいる。  ど、どうしよう……。 「君、名前は?」 「え、川井仁太だけど」 「俺、宮風ソウヤ! ソウヤって呼んでくれ!」 「私は星みこと。みことで良いわ」 「じゃあ、カワジン! これからよろしくな!」 「カ、カワジン? 僕のこと? いや、ちょっと待って! まだやるって決まったわけじゃ」 「とりあえず、俺たち学校に行かないとだから! また会おうな!」 「ちょ、ちょっと待ってよ!」  うわぁ、行っちゃった……学校に行かなきゃいけないのは僕も同じなのに。  一方的に誘われて、まだ入るって言ってないのに、中途半端なまま別れてしまった。  心がだいぶ揺さぶられてしまっている。演技かぁ……夢があるのは僕も同じだし、将来生かせることでもあると思うけど、それでもハッキリやりたいなんて言えないし……。  そう言えば、僕と同じ比奈北小だって言ってなかったっけ。学校でまた会ったらどうしよう……。 「やば、僕も遅刻しちゃう!」  公園にある時計が目に入って焦り出す。今の時間は一体何だったんだ。ただでさえ沈んでいたのに、より混乱してしまっているぞ。  余裕を持って家を出たのに、走っていかないと間に合わない……。遅刻なんかしたら、先生にもお父さんにも怒られちゃうし。  まったく、変な劇団に絡まれちゃったなぁ……。
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