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「朱莉、バド部に入ることにしたんだ」
中学校に入学して一週間ほどが経ったある日。
教室移動の途中で、朱莉は叶子に打ち明けた。
「え、そうなんだ」
視界の端に、叶子の大きく開かれた口が見える。
「そうそう。誘われて行ってみたら、意外と楽しくて」
自分が運動部に入るなんて、朱莉自身まったく想像していなかった。眩しくて、きらきらしてて、中学生にして彼氏彼女作っちゃうような人たちと自分が交われるなんて、妄想の域を出ないと思っていた。
だから、数日前に後ろの席のクラスメートに誘われて見学に行った時は、内心とてもびくびくで。
けれど、体育館で迎えてくれた先輩たちは、緊張しっぱなしの朱莉にもすごくやさしくて、気がつけば「この人たちと一緒にいたい」という気持ちでいっぱいになっていた。
「そっか。すごいなあ」
どこか取り繕ったような叶子の声音。そこにどんな気持ちが隠されているのか、気づかないふりをしながら、朱莉は会話を続けた。
「叶子は? 部活入る?」
「うーん、入らないかなあ。美術部とかあったらよかったんだけど」
「そっかあ」
一緒にバド部入ろうよ、と誘うことはできなかった。
だって、叶子は運動が大の苦手。それに、叶子がバドミントン部の、体育館で元気に駆け回るあの子たちと溶け込んでいる姿を、どうしても想像できなかったから。
「朱莉ちゃん、これから忙しくなるんだね」
「日曜日とかは空いてるから、また遊ぼうよ」
——この時の朱莉の言葉に、嘘はなかった。
けれど実際には、部活のない日曜日も、叶子ではなく新しい友達と一緒にいることが多くなった。
叶子のほうにも新しく友達ができればそれでよかったのかもしれない。けれど、残念ながらそうはならなかった。
運動部の子たちと過ごすうち少しずつみんなの「ノリ」がわかってきた朱莉と違って、叶子はいつまでも幼稚園の時と同じ地味な女の子のままだった。
大人しい性格も変わらないし、あと見た目の問題も大きい。
毎日とっちらかった髪の毛、ボロボロな靴。着替えの時とかに見える靴下は、かかとが擦り切れていることも少なくなかった。
そういういろいろが重なって、みんなから「あの子はちょっと違う」と思われたのが最後、入学から二週間とたたないうちに、叶子とまともに口を聞くのは朱莉だけになっていた。
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