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四時間目の音楽の授業を終え、階段を降りて一組の教室に戻る。
一緒に歩いていたバドミントン部の友達が途中で先生に呼び止められたので、一人で階段を降りて教室に向かっていた。
教室にたどり着くと、中に女子が一人だけいた。ベランダ側の一番後ろの席で重たく揺れるぼさぼさ髪。叶子だった。
「あ、朱莉ちゃん」
叶子の教室移動が早いのは今日だけのことじゃない。唯一の友達である朱莉が大抵別のメンバーと行動を共にしているから、自然と移動は一人ぼっちになり、歩くスピードは速くなる。
「お疲れー。早いね」
廊下を振り返り、誰も周りにいないことを確認してから返した。
叶子と仲良く話している場面を、あまり他の人に見られたくないから。
「お腹空いたね」
珍しく叶子と二人きりの教室。自分から話題を振ってみる。最近あまり話せていない分、ちょっと罪滅ぼしをしたい気持ちがあったのかもしれない。
「ね。あ、今日の給食、コッペパンみたいだよ」
「ほんと? やったー!」
こうして二人で話していると実感する。別に叶子と話すことは嫌じゃない。ただ、他の子達と一緒に過ごす方が楽しくなってしまっただけだ。
そう思うとやっぱり、叶子をひとりぼっちにしていることに責任みたいなのを感じてしまう。
それから少したわいもない会話をした後、叶子が「あのさ」と神妙な面持ちで切り出した。
「朱莉ちゃん、ちょっとこっち来てくれる?」
なんだろう、と思いつつ、叶子の席まで歩く。まだ教室には誰も戻ってきていないから、大丈夫。
「ちょっと待ってね」
少し震えた声でそう言いながら、叶子が自分のカバンのファスナーを開けて中に手を入れた。
数秒間、ごそごそと中身を探る音がして。
やがてカバンの中から出てきた手には、黄色いラッピング袋が握られていた。
「え」
いや、それって、まさか。
「お誕生日、おめでとう」
恥ずかしそうにはにかんだ叶子が、両手で持ったその物体を朱莉に差し出す。
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