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「でも、悪いけど……僕はあの女性を母親だと思えない。思いたく、ないっ」
「ーー……っ」
ドキッと、した。
何故ならその表情があまりにも、弥夜の本当の父親である響夜にそっくりで……。まるで、響夜が怒っているように、感じたんだ。
きっと、そうだったんだろう。
響夜は、弟である雪をとても大切に想っていた。
兄弟として。そして、最愛の存在として……。
弥夜も同じだ。
雪の事を本当の母親のように慕い、また紫愛の事もとても大切に想っている。
その揺るぎない想いが、優柔不断な俺の胸を締め付けたんだ。
弥夜に見つめられたまま、俺は言葉を返す事も、視線を逸らす事も出来なかった。
するとそこへ……。
「にーに!にぃ~にぃ~!!」
「!っ、……紫愛。どうしたの?」
可愛い足音と共に紫愛がこちらに駆けて来て、俺達はハッとした。
何も知らない紫愛は弥夜の脚にギュッと飛び付いた後、見上げて小さな拳を見せるように掲げる。
「これ、あえるー!」
「?……何?」
「きれーな、いちー!にーにに、あえるー!」
よく見ると、小さな掌に握られているのは真っ白な石。
弥夜はそれに気付くと、プッと笑って……。さっきまで俺に向けていたものとは全く違った、優しい、柔らかい表情を紫愛に向けた。
「ありがとう。綺麗だね。
本当に……本当に、綺麗だね」
弥夜は屈んで石を受け取ると大切に握り締めて、もう片方の手で紫愛の頭を優しく撫でながら微笑んでいた。
大切なものを、揺るぎなく真っ直ぐに見つめる瞳ーー。
何故、大人になると、あれこれ悩んでしまうんだろうな?
人目を気にしたり、顔色を伺ったり……。色んな、余計な感情を巡らせて、勝手に難しくして優柔不断になっていく。
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