番外編①紫夕side(4)

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「でも、悪いけど……僕はあの女性(ひと)を母親だと思えない。思いたく、ないっ」 「ーー……っ」 ドキッと、した。 何故ならその表情(かお)があまりにも、弥夜(やよい)の本当の父親である響夜(きょうや)にそっくりで……。まるで、響夜(きょうや)が怒っているように、感じたんだ。 きっと、そうだったんだろう。 響夜(きょうや)は、弟である(ゆき)をとても大切に想っていた。 兄弟として。そして、最愛の存在として……。 弥夜(やよい)も同じだ。 (ゆき)の事を本当の母親のように慕い、また紫愛(シア)の事もとても大切に想っている。 その揺るぎない想いが、優柔不断な俺の胸を締め付けたんだ。 弥夜(やよい)に見つめられたまま、俺は言葉を返す事も、視線を逸らす事も出来なかった。 するとそこへ……。 「にーに!にぃ~にぃ~!!」 「!っ、……紫愛(シア)。どうしたの?」 可愛い足音と共に紫愛(シア)がこちらに駆けて来て、俺達はハッとした。 何も知らない紫愛(シア)弥夜(やよい)の脚にギュッと飛び付いた後、見上げて小さな拳を見せるように掲げる。 「これ、あえるー!」 「?……何?」 「きれーな、いちー!にーにに、あえるー!」 よく見ると、小さな掌に握られているのは真っ白な石。 弥夜(やよい)はそれに気付くと、プッと笑って……。さっきまで俺に向けていたものとは全く違った、優しい、柔らかい表情を紫愛(シア)に向けた。 「ありがとう。綺麗だね。 本当に……本当に、綺麗だね」 弥夜(やよい)は屈んで石を受け取ると大切に握り締めて、もう片方の手で紫愛(シア)の頭を優しく撫でながら微笑んでいた。 大切なものを、揺るぎなく真っ直ぐに見つめる瞳ーー。 何故、大人になると、あれこれ悩んでしまうんだろうな? 人目を気にしたり、顔色を伺ったり……。色んな、余計な感情を巡らせて、勝手に難しくして優柔不断になっていく。
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