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第1章(2)紫夕side
……眠れねぇ。
守護神本部内にある寮。自室に戻った俺は、すぐさまベッドに横になっていた。
珍しく腹も減らねぇし、酒を飲む気にもならない。魔物と戦闘したのはキマイラとの一戦だけだったのにも関わらず、今日の任務はとても疲れた気がする。魔物を相手して斬り続けるよりもずっと、俺には疲れる任務だった。
こんな風になかなか寝付けない夜を過ごす事は、若い隊員になりたての頃はあったにしても、ここ最近は久しくなかった。長い隊員としての生活の中で、終わった任務を反省する事は大事だがいつまでも引きずられ続ける事が何の特にもならない事は十分分かっている。
だから、自分ではどうにもならない事にはさっさと見切りをつけて、次の任務に臨む事を常に心掛けて、最近は引きずる事なんてなかった筈なのに……。
ーー……ああ、クソッ。イライラするな。
雪の事や、マリィに言われた事が頭の中にチラついてちっとも眠れやしない。
ベッドから起き上がった俺は腰掛けたまま脇の棚上に手を伸ばして、常備してあるタバコの箱を掴むと一本取り出して口に咥えた。
それはすっかり習慣付いた行動。……けれど、ライターで火を点ける寸前で、俺の行動は止まる。
「そんなんで「雪ちゃんを引き取りたい」、なんてよく言えたものよね!」
マリィの言葉が、俺の中で響いた。
タバコを吸う事は俺にとって生活の一部みたいなもんで、イライラしたり、気持ちが不安定な時に吸ったりすれば落ち着く安定剤みたいな物だった。
……でも、雪にとったらーー?
それ、は、雪に言われた訳じゃなかった。けど、何だか感じた。
雪はきっと、嫌がる、って……。
そして何より、何故かタバコを吸ってる姿を雪に見られたくねぇ、って、思った。
そう思ったら、俺はタバコとライターをゴミ箱に捨てていて……。翌日、禁煙者用の部屋が空いてないか寮の管理人さんに聞いてたんだ。
……
…………。
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