第1章(2)紫夕side

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「……ひとまず、ベッドに戻ろうぜ?身体冷やすと風邪ひくからさ」 無反応な(ゆき)を抱き上げて俺はベッドまで運ぶと、そっと降ろして寝かせてやろうとした。 でも、俺が良かれと思ってしたこの行動は(ゆき)にとっては違って……。ベッドに降ろした(ゆき)を俺が見ると、カタカタと小刻みに小さな身体が震えていた。 「っ?……(ゆき)、寒いのか?」 「っ……!」 顔を覗き込もうとすると、今までにない位にビクッと反応した(ゆき)が目を見開いて俺を見てくる。さっきまでとは違う揺れた瞳に、震えが止まっていない身体。 明らかに(ゆき)は、俺を見て怯えていた。 「ーー……あ、っ……ご、ごめんっ!」 それが何故なのか一瞬で悟った俺は、(ゆき)から手を放してすぐに離れた。 「ち、違うからなっ?俺はお前を抱こうなんて思ってない……っ」 俺は何とか誤解を解こうと慌てて弁解する。 密室、ベッド、更にベッドに連れて行く俺と言う男……。(ゆき)は完全に、また酷い事をされると思ってるんだ。 ベッドの上で身体を震わせる(ゆき)を見て、普通の人からしたら疲れた身体を休める場所である筈のベッドが、何よりも嫌で怖い場所何だと言う事が分かった。 っ、だから……あんな部屋の片隅で…………。 「(ゆき)ちゃんは色んな意味で普通の子供よりも、何倍も何十倍も難しい子。ただ可哀想だから引き取りたい、なんて生半可な気持ちじゃ……。ハッキリ言って、今の紫夕(しゆう)ちゃんにはアタシは無理だと思うわ」 マリィが俺に言った言葉の意味を痛感する。 俺にとっての普通は、(ゆき)にとっては違って……。(ゆき)にとっての普通が、俺には違う。 世間一般的に常識で当たり前の事でも、優しい行動だとしても、(ゆき)には通用しない事があるんだ。 ……、……でも。 それを俺は、不思議と嫌とか面倒くさいとは思わなかった。 誰だって、人は一人一人違う。 ただ(ゆき)は、それが普通の人よりもちょっとばかし特殊で、多いだけだーー。 むしろ、俺はそんな(ゆき)を知りたいと、思ったんだ。 そう感じたこの時点で、自分が(ゆき)に対してどんな感情を抱いてたのか、なんて決まっていたのに……。(ゆき)の心の傷を抉らないように心に決めた結果、俺が自分の気持ちに気付けるのはずいぶんと後になる。
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