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「……ひとまず、ベッドに戻ろうぜ?身体冷やすと風邪ひくからさ」
無反応な雪を抱き上げて俺はベッドまで運ぶと、そっと降ろして寝かせてやろうとした。
でも、俺が良かれと思ってしたこの行動は雪にとっては違って……。ベッドに降ろした雪を俺が見ると、カタカタと小刻みに小さな身体が震えていた。
「っ?……雪、寒いのか?」
「っ……!」
顔を覗き込もうとすると、今までにない位にビクッと反応した雪が目を見開いて俺を見てくる。さっきまでとは違う揺れた瞳に、震えが止まっていない身体。
明らかに雪は、俺を見て怯えていた。
「ーー……あ、っ……ご、ごめんっ!」
それが何故なのか一瞬で悟った俺は、雪から手を放してすぐに離れた。
「ち、違うからなっ?俺はお前を抱こうなんて思ってない……っ」
俺は何とか誤解を解こうと慌てて弁解する。
密室、ベッド、更にベッドに連れて行く俺と言う男……。雪は完全に、また酷い事をされると思ってるんだ。
ベッドの上で身体を震わせる雪を見て、普通の人からしたら疲れた身体を休める場所である筈のベッドが、何よりも嫌で怖い場所何だと言う事が分かった。
っ、だから……あんな部屋の片隅で…………。
「雪ちゃんは色んな意味で普通の子供よりも、何倍も何十倍も難しい子。ただ可哀想だから引き取りたい、なんて生半可な気持ちじゃ……。ハッキリ言って、今の紫夕ちゃんにはアタシは無理だと思うわ」
マリィが俺に言った言葉の意味を痛感する。
俺にとっての普通は、雪にとっては違って……。雪にとっての普通が、俺には違う。
世間一般的に常識で当たり前の事でも、優しい行動だとしても、雪には通用しない事があるんだ。
……、……でも。
それを俺は、不思議と嫌とか面倒くさいとは思わなかった。
誰だって、人は一人一人違う。
ただ雪は、それが普通の人よりもちょっとばかし特殊で、多いだけだーー。
むしろ、俺はそんな雪を知りたいと、思ったんだ。
そう感じたこの時点で、自分が雪に対してどんな感情を抱いてたのか、なんて決まっていたのに……。雪の心の傷を抉らないように心に決めた結果、俺が自分の気持ちに気付けるのはずいぶんと後になる。
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