番外編①紫夕side(2)

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番外編①紫夕side(2)

翌日ーー。 誰にも相談出来ないまま、俺は本部の仮眠室で朝を迎えた。 家になんて、帰れなかった。 マリィや弥夜(やよい)……。特に紫愛(シア)に、どんな顔して会えばいいのか分からなかったんだ。 シャワーを浴びて、個人のロッカーにあらかじめ常備してあった服に着替えると一息ついて、俺はずっと見られないでいた見合い写真を広げた。 さすがに、事前に顔くらい知っておかなくちゃ不味いと思ったから……。 ……美人、だな。 写真に写っていたのは、おそらく二十代半ばの黒髪に黒い瞳の女性。長い黒髪を綺麗に結い上げて、上品な着物を見事に着こなした和服美人だった。 十年前の、(ゆき)に出会う以前の俺なら、絶対にめちゃくちゃ心躍らせて喜んでただろう。 なんて、断るかな……。 けど、美人だと思う以外、何の興味も湧かない。 それどころか、俺の頭の中にはずっと"どう断れば、支部の司令官に失礼がないか"、と言う事しかなかったんだ。 『もしも、この先。紫夕(しゆう)が「この人なら!」って強く想える人が出来たら、いいよ。 きっと紫夕(しゆう)がそう想えた人なら、紫愛(シア)の事も……安心して任せられる、って思うから』 (ゆき)の最後の手紙には、そう書かれていた。 でも、ダメだ。 紫愛(シア)の為には母親が居た方が良いのかも知れないが、俺が無理なんだ。 俺が、(ゆき)じゃなきゃダメなんだよ。 左手の薬指に堂々とはめる事は出来ないけど、自分の指輪と(ゆき)が置いて行った指輪は、今も一緒にネックレスチェーンに通して首に掛けてる。 肌身離せず、ずっと持ちながら……。今でも、ひょっこりと(ゆき)が帰って来て、また一緒に指にはめられる日を夢に見るんだ。 …… …………。
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