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その言葉に、「え、っ?」と思いながら視線を向けると、玄関の廊下で仁王立ちしたマリィが怒った表情で俺を見ていた。
マリィには前日も前々日も、本部に泊まる事はメールで連絡した。
けれど、それはあくまでマリィに対しての連絡にすぎなかった事に、俺はようやく気付く。
紫愛は賢い。
まだ字は読めないが、カレンダーに◯印がつけてある日は俺が休みの日だという事を把握している。
そしてその◯印がある前の日の夜は、一緒にお風呂に入って、一緒に眠れる日だという事も……。
つまり紫愛は、昨夜楽しみにしていたにも関わらず俺が帰って来なかったから悲しくて……。寂しい想いをして、泣いていたのだ。
「仕事で大変な時もあると思うわ。
けど、紫愛ちゃんにはまだそれは分からないのよ?
急に帰れなくなるなら、電話の一本でもかけてきて紫愛ちゃんに直接自分の声で伝えてあげてちょうだい。
昨夜から「ぱぱ、ぱぱ」って、ずっと泣いてたんだから」
マリィの言葉と、紫愛の泣き声が心に響いて俺は自分を殴ってやりたくなった。
そして、つい、思っちまった。
やっぱり、紫愛には母親が必要なんじゃないかーー?
……って。
頑張ってきたつもりだった。
片親でも、マリィや周りの人の助けがあれば何とかやっていけると思ってた。
けど、雪がいなくなったあの日のように泣く紫愛を見たら、俺の心に迷いが生まれたんだ。
……
…………。
その後、紫愛は俺の傍を片時も離れなかった。
普段なら弥夜に飯を食わせてもらったり遊んだりするのに、ずっと俺の膝上に座ったまま離れなくて……。
お昼寝の時に読む絵本も、いつもは俺の下手な読み聞かせじゃ嫌がるのに、「ぱぱ!ぱぱ!」って……。一日中、俺にベッタリだった。
そんな状態だから、この日は以前から弥夜と約束していた稽古に付き合ってやる事が出来なかった。
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