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***
その後。
葵の明るさが幸いしてか、紫愛は意外にもすぐに懐いたようだった。砂場で山を作ったり、泥団子を作ったりして仲良く遊んでいる。
その様子に一安心。
おかげで俺は、先日見てやれなかった弥夜の稽古に付き合ってやる事が出来た。……けど。
「?……どうした?弥夜」
どうも、弥夜の様子がおかしい。
稽古に集中出来ていなければ、表情も浮かないままで、少しも楽しそうじゃない。いつもなら生き生きして稽古するのに……。
木刀を握っていた手を止めて尋ねると、弥夜が少し離れた砂場で遊んでいる葵と紫愛の方を見つめながら言った。
「……あの女性と、付き合ってるの?」
「!っ、……へ?」
「あの、葵さんって女性と……再婚、するの?」
「さ、再婚、って……っ」
弥夜の言葉に驚き、「お前、そんな言葉どこで覚えてきたんだ?!」ってツッコミを言いそうになったが……。俺はすぐに、ここはそんな風に茶化しちゃいけない場面だと思って言葉を噤んだ。
そして、ゴクッと唾を呑んで、言った。
「……そう、なったら……嫌、か?」
「……」
「弥夜は、どう思う?」
そんな事を尋ねた俺は、後から思い返せば最低だった。
自分が「この女性と結婚したい」なんて言えないクセに、その決断を弥夜の意見に委ねようとしたんだから……。
「……別に、いいんじゃない」
「!……え?」
「僕は、紫愛が幸せならそれでいいと思う」
「弥夜……」
そう呟くように言った弥夜が何だか悲しそうに見えて、俺は思わず肩に手を触れようとした。
けど、その瞬間。弥夜が見上げて、鋭い目付きと冷たい声で俺に言った。
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