番外編①紫夕side(5)

1/6
前へ
/589ページ
次へ

番外編①紫夕side(5)

「……やべ。何がいいか、聞くの忘れたな」 広場の片隅にある自販機に到着。 しかし。自販機の前まで来て、俺はどれを買おうか悩んでいた。 記憶を巡らせ、それぞれに合った飲み物を選択していく。 弥夜(やよい)は、甘い飲み物は飲まないから絶対にお茶だろ。 紫愛(シア)は「ジュース」って言った時は絶対にジュースしか飲まなくて、お茶とか渡すと不機嫌になるから……このリンゴジュースにするか。 (あおい)はーー……、……。 そんな風に飲み物を選んでいたら、俺の目に"ある飲み物"が止まった。 ミルクとハチミツが入ったミルクティー。 それは、自販機で飲み物を買う時に(ゆき)が必ず買って飲んでいたものだった。 「マリィの淹れてくれる紅茶には敵わないけどね!」って言いながらも、美味しそうに飲んでいたのを思い出す。 「……。っ、(ゆき)……」 思わず、その名前を口にしていた。 あまり口に出してしまうと想いが止まらなくなるって分かってるから、朝、(ゆき)の写真に「行ってきます」の挨拶をする時以外は口にしない、って自分の中で決めていたのに……。 それに、俺が口にすれば、紫愛(シア)(ゆき)の事をまた思い出してしまって、母親が恋しくて泣き続けると思った。だから、ずっとずっと、封印するように……していた。 そんな事をしても、自分を追い込むだけなのに……。 広場を見渡せば、父、母、子、と、揃って、楽しそうに笑いながら遊んでいる姿が眩しく映る。 俺は、片親だからしっかりしなくちゃいけない。 (ゆき)の分も頑張らなきゃいけない。 俺がいつまでも、「(ゆき)(ゆき)」って言ってちゃいけない、って……思ってたんだ。 そう、強く思い過ぎるあまり、俺は世間体よりも大切なものが見えなくなっていた。 …… …………。
/589ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加