番外編①紫夕side(5)

5/6
前へ
/589ページ
次へ
*** 「ーー……っ、やっぱ、しっかり洗わないと駄目だな」 広場の水道で汚れと格闘すること数十分。 俺は持っていたタオルを水で濡らし、(あおい)のズボンについた汚れを拭おうとしたが、やはり完璧に綺麗にする事は難しかった。 「本当にごめんな。新しいズボン代、弁償するから……」 「そんな!ほんとにいいんです。今日は広場で遊ぶ、って聞いてたから、汚れても大丈夫な服装で来てたんです。 それにこれ位の汚れ、洗濯機で洗えばすぐに落ちますから!」 頭を下げる俺に、(あおい)は明るい声と笑顔でそう言ってくれた。 (あおい)が良い子で本当に良かった。けど、俺はやはり紫愛(シア)が彼女に対して泥団子を投げつけた事が、ものすごくショックだった。 やっぱり、俺が甘やかして育ててしまったからだろうかーー……? 大事に大事にし過ぎて、少々過保護にしてしまったから自分が1番で、他の人を想いやる心が欠けてしまったのかも知れない。 「……ごめんな。家では、あんな風に物を投げたりする子じゃねぇんだ。 ただ、今まであんまり身内としか過ごさせてこなかったから……その、……」 でも、そう落ち込む俺に、(あおい)が言った。 「紫夕(しゆう)さん。紫愛(シア)ちゃんは、悪くないですよ? 紫愛(シア)ちゃんは、きっと自分のお母さんの居場所を守りたかっただけなんです」 「ーー……え?」 お母さん()の居場所を、守りたかったーー……? 一体、どう言う事だ?と疑問に思う俺に、(あおい)は話してくれた。俺が飲み物を買う為に、あの場を離れていた間にあった事を……。 聞けば、広場で楽しそうに遊ぶ親子の姿を、紫愛(シア)がじっと見つめていたそうだ。 手を左右に立つ父親と母親に片方ずつ繋いでもらって、間に居る子供は持ち上げてもらったり、ブラブラとブランコみたいに揺らしてもらったりしていて、とても嬉しそうで……。それを見る紫愛(シア)の瞳は、(あおい)から見てとても羨ましそうだったとか。
/589ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加