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「ーー……っ、やっぱ、しっかり洗わないと駄目だな」
広場の水道で汚れと格闘すること数十分。
俺は持っていたタオルを水で濡らし、葵のズボンについた汚れを拭おうとしたが、やはり完璧に綺麗にする事は難しかった。
「本当にごめんな。新しいズボン代、弁償するから……」
「そんな!ほんとにいいんです。今日は広場で遊ぶ、って聞いてたから、汚れても大丈夫な服装で来てたんです。
それにこれ位の汚れ、洗濯機で洗えばすぐに落ちますから!」
頭を下げる俺に、葵は明るい声と笑顔でそう言ってくれた。
葵が良い子で本当に良かった。けど、俺はやはり紫愛が彼女に対して泥団子を投げつけた事が、ものすごくショックだった。
やっぱり、俺が甘やかして育ててしまったからだろうかーー……?
大事に大事にし過ぎて、少々過保護にしてしまったから自分が1番で、他の人を想いやる心が欠けてしまったのかも知れない。
「……ごめんな。家では、あんな風に物を投げたりする子じゃねぇんだ。
ただ、今まであんまり身内としか過ごさせてこなかったから……その、……」
でも、そう落ち込む俺に、葵が言った。
「紫夕さん。紫愛ちゃんは、悪くないですよ?
紫愛ちゃんは、きっと自分のお母さんの居場所を守りたかっただけなんです」
「ーー……え?」
お母さんの居場所を、守りたかったーー……?
一体、どう言う事だ?と疑問に思う俺に、葵は話してくれた。俺が飲み物を買う為に、あの場を離れていた間にあった事を……。
聞けば、広場で楽しそうに遊ぶ親子の姿を、紫愛がじっと見つめていたそうだ。
手を左右に立つ父親と母親に片方ずつ繋いでもらって、間に居る子供は持ち上げてもらったり、ブラブラとブランコみたいに揺らしてもらったりしていて、とても嬉しそうで……。それを見る紫愛の瞳は、葵から見てとても羨ましそうだったとか。
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