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それを見て、ハッとする。
そして、俺が葵の話を聞いて"まさか"と思っていた事が、確信に変わった。
眠る紫愛の手から、そっとその縦長の四角い板を手に取ると……それは、写真立て。俺の部屋にだけ飾っていた、雪が写っている写真の入った写真立てだ。
っ、嘘……だろ?
雪と離れ離れになってしまった際、紫愛はまだ2歳にもなっていなかった。
記憶にある筈がない。時が経てば、忘れていくと思っていた。
現に、次第に夜泣きが減り、「まま」と口にする事もなくなってきていたんだ。でも……。
「紫愛は、雪さんの事を忘れてなんていないよ?」
俺の"まさか"に気付いていたように、弥夜が言った。
「これは僕が見て感じた事だから」って付け加えてから、弥夜は自分の目線から見た紫愛の事を話してくれた。
雪がいなくなって以来、確かに初めの方は寂しくて、悲しくて、紫愛は母親を求めて泣いていた。
けど、次第に……自分が泣くと、俺や周りのみんなも悲しそうな表情をしている事に気付いたそうだ。
自分が「まま」と言えば、みんなが悲しむ、困る……。だから紫愛は、次第に「まま」とは口にしなくなったらしい。
そして、紫愛はよく、腕に着けている桜の飾りのヘアアクセサリーを眺めている時があるそうだ。
桜の飾りの、ヘアアクセサリー。
それは、雪が別れ際に紫愛に「自分だと思って、お守りにして?」と言って、渡した物で……。「その笑顔、忘れちゃ駄目だよ?」と言う言葉と共に残していった物、だった。
っ……俺は、本当に馬鹿だッ。
全然、気付かなかった。
雪の存在を隠したり消す事が、紫愛の為になると勘違いしていた。
けど、全然違った。
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