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「紫愛はね、きっと待ってるんだ。今も、雪さんは何処かで生きてて……いつか、帰って来るんだ、って」
ヤバい、と思って熱い目を手で覆おうとした時にはもう遅くて、俺の目からは涙が溢れていた。
そして、気付くんだ。
雪が居なくなって、誰よりも前に進めてなくて、未練たらしくしていたのは、俺自身だ、と……。
写真や想い出の品を人目に付かないよう隠して、雪の存在を遠ざけて、現実を受け入れていなかったのは紫愛よりも自分。
誰よりも……。母親や妻と言う存在を求めて、弱っていたんだ。
紫愛はとっくに、乗り越えていたのにーー……。
情けない。頼りない。
そう思われたくなくて、雪の存在を隠す事で、見せないようにしていた。
俺は紫愛の為ではなく自分の為に、雪を封印しようとしていたんだ。
久々に流した涙は、まるでその分溜まっていたかのようになかなか止まらなくて、俺は暫く俯いていた。
すると、「ぱぁぱ?」と言う声と共に、小さな掌が俺の頭をそっと撫でる。
顔を上げると、目を覚ました紫愛が、目をぱちくりさせて俺を見ていた。
そんな紫愛の目は、泣き過ぎて赤くて……。更に左手の甲も、俺が叩いたせいで赤くなっていた。それなのに……。
「いちゃいの?」
「っ、……」
「いっちゃいのー、とんじぇけー!」
俺の頬に触れて、小さな手をバンザイするように大きく上げて、そう言ってくれた。
「っ、紫愛……!」
愛おしさが、込み上げる。
俺は紫愛を抱き寄せて、そのままぎゅーっと胸に抱いた。
「っ……ご、めん!
ごめんな?……紫愛ッ」
抱き締めながら何度も何度も、俺は紫愛に謝り続けた。
何も言わずに、ぎゅっと小さな両手が俺の服を握り締めてくれて……。それが嬉しくて、暫く、俺の涙は止まらなかった。
……
…………。
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