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信じられなかった。
あんなに僕を可愛がってくれて、まるで本当の息子のように……。いや、自分の後継者のように育ててくれていた橘さんからの、そんな言葉。
何故?と言う疑問と、どうしようもない怒りの感情で一瞬我を忘れて……。僕は恐慌に出た。
けど、響夜君にブチのめされて、施設を追放されて……。暫く一人になって、もう一度、冷静になって考えたんだ。
橘さんが僕を見捨てる筈がない。
そうだ。これは、橘さんが僕に与えた課題!試練なんだ。
自分の元で、自分の研究を引き継ぐのではなく、
「私が教える事はもう何もない。
これからは、自分で新たな道を切り拓け」
そう、言ってくれているのではないか、と思った。
ようやく、そう思えて。
それを確かめに、僕は再び橘さんの元を訪れた。
……
…………12月の半ば頃の事だ。
少し寒い夜だったけど、何故か激しい爆発と共に燃える橘さんの研究所は暑いくらいだった。
これはきっと一つの時代が終わる日で、世界が新たに生まれ変わる日だったんだろうな。
そして新しい世界は、新たに時代を導く者を必要としている、と僕は思った。
防犯ブザーやスプリンクラーが全く作動していない研究所はすぐに火の海だったが、厳重に造られていた秘密の地下室へ続く通路と階段は無傷だった。
僕は途中で自らの魔器ー風乱ーを回収すると、ゆっくりと階段を降り、秘密の地下室へ。
「……お久し振りです、橘さん」
扉を開け、壁にもたれ掛かるようにして倒れていた橘さんに微笑みかけると、僕は歩み寄ってその身体をギュッと抱き締めた。
鋭い刃物で胸を貫かれ、大量の血を流したその身体がもう命の秒針を刻んでいる筈もなく、返事はなかった。
でも、死に顔を見れば最期まで橘さんが自らの生き方を全うして逝った事が分かる。そして……。
ああ、やっぱり……。
この世界は新たに導く者を必要としている。
橘さんは、僕をその後継者に選んでくれたんだ!!
僕は橘さんをそっと寝かせると、地下室にある机の上からアタッシュケースを手に取って胸に抱く。
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