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「……そうかよ。
なら、その命。俺によこせ」
「どうでもいいなら、俺が使ってやる。
……だから、俺が良いって言うまで死ぬんじゃねぇ」
ーー……あんな言葉を掛けたのに。
偉そうな口を叩いて助けたのに、結局俺はこれ以上雪に何もしてやれねぇじゃん。
これではまるで、捨てられていた猫を見付けて拾ったクセに、結局飼えなくてまた見捨てる無責任な偽善者と一緒だった。
しかし、どうにかしたくても、雪を引き取りたいが為に結婚する……なんて事は出来なければ、隊員を辞めるという選択肢もこの時の俺には考えられなかった。
合わせる顔、ねぇなーー……。
院長先生に何も言えなくなってしまった俺は、保護施設を後にして医療施設の方へ足を進めながらも、気持ちも歩みも重かった。
「今日は簡単な治療と検査をしたら雪ちゃんをお風呂に入れてあげる予定だから……。お互い用事が終わったら、また後でここで落ち合いましょ?」
マリィにそう言われて決めた待ち合わせ場所の廊下に先に着いた俺は、長椅子に座って溜め息を吐くと、そのまま俯いた顔を上げる事が出来ずにいた。
……
…………そのまま、どれ程の時間が過ぎただろう。
耳にこちらに向かって来る廊下を歩く足音が聞こえたと思ったら、相変わらずの元気で明るい声が俺に飛んで来た。
「あら、紫夕ちゃん!早かったのね~お待たせっ!」
……ったく。
人の気も知らねぇで元気だな、マリィは……、……。
いつもと変わらない声のマリィにそう思いながらも、そんな様子に少しだけ元気をもらえた気がして俺は顔を上げる。
「おう、待ちくたびれたわ。これでもこっちも任務後なんだから、さっさと休ませてくれよ」
「あっらぁ~頑丈と健康が取り柄の男が何言ってるのよ!身支度を急かす男は嫌われちゃうんだから~!……ねっ?雪ちゃん」
俺が冗談混じりに言うと、マリィもケラケラと笑いながら場を盛り上げてくれた。その笑顔にフッと思わず笑みが漏れた俺だったが……。
ーー……っ。
マリィに、少し後ろにいた雪を見せられた瞬間。俺の時は一瞬止まった。
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