forget me not

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 さくらは教室の後ろにある鉢植えの土が乾いていることに気がついた。こんなところに植木鉢なんてあったかと思いながら、さくらは水差しを持って教室を出る。  廊下にある水道までは三クラスほど離れている。水道に行く途中、他のクラスには人影が見えた。熱心に机に向かって、勉強している。あと一ヶ月で一学期中間考査だからであろう。  水道の中を冷たい水が流れていく。さくらは水差しの四分目くらいまで水を入れ、 教室に戻る。  植木鉢に植わっているのは勿忘草の花。小さな青い花をぽろぽろとつけたかわいい花である。  勿忘草は多年草として分類されているが、暑さと過湿によって夏を越すことができないことから、日本では一年草として分類されている。ここに咲いているのは青い花だが、他にもピンクや紫などの色がある。  さくらは花ではなく土の方に水がかかるようにあげた。すると、 『ありがとう』  さくらの頭の中に声が響いてきた。  辺りを見回すが、 教室の中には誰もいない。見回したあとにそもそも耳からではなく頭に響いているので、周りからではないだろうと言うことに気がついた。 『あなたの前よ』  そう言われてさくらは前を見るが、目の前には勿忘草しかない。まさか、と思いながらさくらは花を見つめてみる。 『胡散臭いとか思わないでちょうだい? 数十年ぶりに地上に出たけどずいぶんと様子が変わったのね。あなたのお名前は何かしら?』  さくらの目の前にヒラヒラとしたワンピースにお花の冠を着けた、 手のひらと同じくらいの女の子が浮いている。 「尾上さくらです」 『さくら。私は花の妖精。約束を守る変わりに1つだけ願いを叶えてあげるわ』 「花の妖精ってあの伝説の?」  さくらはおとぎ話の中で花の妖精について聞いたことがあった。さくらの言葉を受けて花の妖精は否定の意を込めて首をふる。 『伝説じゃないわ。花の妖精は実在するものよ』 「人間に悪いことに利用されてきたのに、どうしてまだ人間の前に現れるの?」  さくらがそう言うと、妖精は少しうなだれる。 『流石に学習したわ。まず一つに、私たちが願いを叶えたあと、その人間からは妖精の記憶を消すようにした。次に、強い願い事が一つだけある人の前に現れることにしたの」 「強い願い・・・・・?」 『そう。そのためのきっかけを与えるの。きっかけだけよ。すべてを与えるわけじゃない。そのきっかけを上手く使うことが出来るかはあなた次第』  でも、と妖精は続ける。 『あなたはまず自分の中の強い願いを自分で見つけることが大切ね。出たくても出れない。心の奥底で箱の中に閉じ込められてる気持ちに気づいてるかしら』 「……」
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