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2.
「今日はだいぶ暖かいわね」
奥様と縁側に座った女性がそう言って、庭をゆっくり見回します。その目は東の端で止まり、まだ蕾のかたい桜の枝を見上げました。
「でも、開花はもう少し先になりそうかな」
彼女の面差しは、奥様によく似ています。兄の紳一郎さんよりも、この風花さんの方が、小さい頃から母親似だと評判でした。
わたくしの枝を手折って叱られた少女が、もう白髪混じりの女性。時が経つのは、なんと早いことでしょう。
「悪いわね、桜もまだ咲いていないのに来てもらって」
奥様の謝辞に、風花さんは笑みを浮かべて首を振りました。
「私、沈丁花も好きよ。道を歩いていてこの甘い香りがすると、つい探してしてしまうの」
「そう言われてみれば、垣根の向こうを通る人がよくキョロキョロしているわね」
「でしょう?」
「沈丁花は背が低くて、みにくいからね」
奥様と風花さんが、庭の西側に咲く花を見やり、よく似た顔をほころばせます。
「私ね、この庭にいつも何かの花が咲いているのを、当たり前だと思ってたわ。梅雨どきの紫陽花、夏の百日紅、冬には梅と寒椿。みんな、季節がくれば勝手に咲くんだろうって」
「まあ、ふふふ」
「お母さんが手入れして、咲かせていたのよね。自分が家と庭を持って、初めて知った」
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