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「今日はだいぶ暖かいわね」  奥様と縁側に座った女性がそう言って、庭をゆっくり見回します。その目は東の端で止まり、まだ蕾のかたい桜の枝を見上げました。 「でも、開花はもう少し先になりそうかな」  彼女の面差しは、奥様によく似ています。兄の紳一郎(しんいちろう)さんよりも、この風花(ふうか)さんの方が、小さい頃から母親似だと評判でした。  わたくしの枝を手折って叱られた少女が、もう白髪混じりの女性。時が経つのは、なんと早いことでしょう。 「悪いわね、桜もまだ咲いていないのに来てもらって」  奥様の謝辞に、風花さんは笑みを浮かべて首を振りました。 「私、沈丁花(じんちょうげ)も好きよ。道を歩いていてこの甘い香りがすると、つい探してしてしまうの」 「そう言われてみれば、垣根の向こうを通る人がよくキョロキョロしているわね」 「でしょう?」 「沈丁花は(せい)が低くて、みにくいからね」  奥様と風花さんが、庭の西側に咲く花を見やり、よく似た顔をほころばせます。 「私ね、この庭にいつも何かの花が咲いているのを、当たり前だと思ってたわ。梅雨どきの紫陽花(あじさい)、夏の百日紅(さるすべり)、冬には梅と寒椿(かんつばき)。みんな、季節がくれば勝手に咲くんだろうって」 「まあ、ふふふ」 「お母さんが手入れして、咲かせていたのよね。自分が家と庭を持って、初めて知った」
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