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『これが最後の扉だ。』 目の前には白い小さな扉が一つ。 これを開ければ、本当に目が覚めるのだろうか。 僕は夢の中で彷徨っていた。 眠る前の記憶は今も思い出せていない。 それに、ここが本当に夢の中なのかさえも よくわからないけれど ここは確実に現実ではなかった。 そしてこの夢の始まりに、こう告げられた。 『今から現れる扉を自分に従って開けよ。 最後の扉を開いたときに君は目覚めるだろう。』 その 声 は、性別も年齢もわからないような 不思議な声で、ただその一言だけを残して消えた。 視界は真っ暗で何も見えない。 どうすればいい?と考えかけたその瞬間。 ざわ  ざわ   ひんやりとした風が僕に触れた。 これは、森…? 見渡せば、周りには空を隠してしまうほどの 立派な木々が所狭しと並んでいて、 連なった枝から垂れ下がる大きな葉は ざわざわと風に揺られている。 足元は無造作な土や散らばった小石、 落ち葉の隙間には木の実のようなものも見える。 僕はいつの間にか森の奥に来ていたのだった。 記憶はないのに、どこか懐かしいような気がする。 進むべき道は不思議とわかった。 まるで自分が自分じゃないような感覚で 足は勝手にどんどんと前へ進んでいく。 どうして僕は、こんな所へ? やっぱり変な夢でもみているんだ。 ありきたりな頬をつねるという動作も試しては みたけれど目を覚ますことはできなかった。 夢の中の森は僕を包み込んでくれているような 不思議な安心感があった。 たくさんの植物が咲いていて生命力に溢れ、 風は心地よく、全てが美しく見える。 やわらかい土、しっかりと根を生やす草、 固くどっしりとした岩、大きな体を支える木の幹、 側を流れる細く透明な川。 まるで誘い込まれるように僕は進んでいく。 しばらく歩くと「ここだ。」と直感でそう感じた。 そこはさっきまでの景色と何も変わらない森の中。 瞬きをして目を開くと 気づけば何もなかったはずの場所に 見覚えのある丸太小屋が建っていた。 どうして僕はここを“知っている”のだろう? 古びたその小屋の扉の前に立ち そっとドアノブに触れた。 その瞬間、視界が真っ暗になった。 『君はこの小屋の中で何がしたい?』 どこからか、またあの不思議な 声 が聞こえた。 「小屋の中で何を?わからない。 それよりもあなたは誰なのですか?」 僕の声を無視して 声 は続ける。 『望むものを一つ与えよう、何が欲しい?』 「…答えてくれないのか。 ならばフカフカのベッドが欲しい。 もう歩き疲れてクタクタなんだ。」 また瞬きをすると小屋の前に戻っていた。 さっきまで何をしていたんだっけ…。 まぁいいや、中に入ろう。 小屋に入ると大きなベッドが一つ。 真っ白でなんともフカフカな布団。 僕はそこに飛び込んだ。あぁ、疲れた。 少しだけ眠ろう。 目を瞑るとすぐに意識は薄れた。
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