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何か懐かしいその音で目が覚めた。 長い間眠っていたようだった。 不思議な夢を見ていたような気がする。 ここは一体どこで、僕は誰で、何をしていて、 どうして僕はここで眠っていたのだろう…。 白いフカフカのベッドの上で背伸びをして 考えてみるけれどまるで思い出せない。 とりあえず外に出よう、そう思い部屋の扉を 開こうとするとその瞬間、視界は真っ暗になった。 そしてどこからともなく不思議な声が聞こえた。 『君はこの扉の外に出て何がしたい?』 その 声 は聞き覚えのある不思議な声。 「あなたは誰?外には何があるの?」 『望むものを一つ与えよう、何が欲しい?』 「…何も思いつかないよ。」 瞬きすると目の前には部屋の扉。 今、何かあったような…、気のせい? 扉を開けて外に出るとそこは浜辺だった。 懐かしい音は、海の波音だったんだ。 でも、僕はどうしてこんなところにいるのだろう。 ここには砂浜と海と空しかない。 海の向こうには水平線と空が見えるだけ。 砂浜の向こうには地平線と空が見えるだけ。 ここにいても仕方ないので行き先もわからぬまま 僕は海に沿って進んでみることにした。 歩けど、歩けど、右側には海、左側には砂浜。 どこまで歩いてもただそれだけだった。 空の色が澄んだ青から焼けたような橙になり、 幻想的な紫になり、やがて深い紺色になった。 遠いな、果てしないな…。 歩き続けて、また歩き続けて、 そして体が動かなくなった。 こういうとき、どうすればいいんだっけ。 思い出そうとしても思い出せない。 僕は倒れ込んだまま海の方を見つめた。 チカチカと輝くあれは…そうだ、星だ。 あの静かに海を照らすそれは、月といったっけ。 なんて、美しいのだろう。 しばらく長い間、暗闇と白い光の中で ただただ波の音を聞いていた。 何も思い出せないし、体は動かないけれど、 それでも良いと思えた。 やがて空と海が金色に燦めき始めた。 この現象を何ていうんだっけ…。 眩しくてしばらく目が開けられなかったけど 僕はその光の中心におもむろに手を伸ばしていた。 そしてその輝きの正体をギュッと掴むと ソレを口にそっと運んだのだった。 それはじんわりと暖かくて、顔がほころんだ。 あまりの感動に涙が流れた。 「…美味しい。」ポツリと言葉が溢れる。 あぁ、そうだ。 こういうとき「美味しい」って言うんだった。 体中に染み渡っていくようなこの感覚が 僕はとっても好きだった。 その光を何度も何度も口へ運ぶうちに 体はすっかり元気になった。 もうどこへでも走りだしていけそうな気がした。 砂浜の方を振り返ると少し先の方に 何かがポツン落ちているのが見えた。 なんだ、あれ…? 立ち上がり恐る恐る近づくと、 それは砂にまみれた分厚い本のように見えた。 それを拾おうと手を触れた瞬間、 急に視界は閉ざされた。 真っ暗闇の中は不思議と怖くない。 『覚悟はできているか?』 どこかで聞いたような不思議な 声 がする。 よくわからないけれど今の僕には 力がみなぎっている。強く頷いた。 『前に進み続けるんだ、何があっても。』  声 がそう言うと、カッと眩しい光に襲われた。 えっと…何をしていたんだっけ。 あぁ、そうだ、この本を…。 それを拾って軽く砂を払い、表紙を開いた。 すると本の中から突如、黒い煙のような塊が 飛び出し僕に覆いかぶさると、腕を強く掴んだ。 「痛い!!離して!!!」 必死に振り払おうとするがそれに 触ることすらできなかった。 抵抗むなしく、僕は体ごとその本の中に 勢いよく引きずり込まれてしまったのだった。
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