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目を開けるとそこは見慣れた部屋。 いつものように起きてカーテンを開いても 空は暗いままだった。今日は曇りか。 いつもの荷物を持って いつもの道を歩いて いつもの場所についた。 あぁ、今日もだ。 胸がザワザワする。ここにいるだけで苦しい。 音が聞こえればお腹がぎゅっと痛くなる。 何かをしようとすれば頭が痛くなる。 どうしようもなく息が苦しくなり 涙が出そうになるけれどそれを我慢する。 何かに見られているような気がする。 逃げだしたいのにの体が硬直して動かない。 何かを考えたいのに何も考えられない。 ここはどこ、知っているはずなのに思い出せない。 ここから早く出たい、助けて、誰か…。 『チガウ』『#£?℃%$』『ドウシテ』 『※¿∇√:¢』『ニゲルナ』『キモチワルイ』 『カワイソウ』『@&≠¥℉』『シネ』 体中を刺すような言葉達が僕を襲った。 誰の声かなのかは思い出せない。 いろいろな人の声が混じったような 胸にずっしりと響いてくる声。 それは酷く僕を蝕んで、耳を、頭を、胸を えぐるように攻撃してくる。 「やめて、やめてくれよ、頼むから…。」 耳をふさいでも鳴り止むことのないその声に 僕は歯向かうように言葉にならない声を叫んだ。 「あ"ぁっアァァあ"あ"あ"ぁうアァッ!!!!!」 獣を追い払うように、何度も、何度も叫ぶ。 それでもその声は僕に浴びせられ続けた。 胸が張り裂けそうなほど苦しくて、 いつしか涙を流し、血を吐きだし、 もう声が出ているのかも よくわからなくなってきた頃に、 それらとは違う声が少しずつ聞こえてきた。 『タタカエ。』 『たたかえ。』 『戦え。』 聞き覚えのある 声 だった。 『戦え!』『戦え!』『戦え!』『戦え!!』 『戦え!』『戦え!』『戦え!』『戦え!!』 敵でもない、味方でもない、その 声 は 戦え、と僕に叫び続ける。 戦うなんて…できるわけない。 「無理だよ、僕には…。」 僕はいつもの場所から逃げるように 部屋の扉を開こうとした。視界は真っ暗になった。 『戦え。』 「どうやって戦うっていうの? 戦ったって、勝ち目なんか無いのに。」 『…。』 「怖いよ、苦しいよ、逃げたいよ。 戦いたくなんかないよ。」 『では、その望みを叶えよう。 それが君の望みであるならば。』 視界がぼやぼやと明るくなり始めた。 「…待って!やっぱり…僕は…。」 何か大事なことを忘れている気がした。 『もう戦わなくて良いんだ。』 「いやだ!怖いけど、次は、今度こそは、 必ず戦うっていつかの僕が決めた気がするんだ。」 『それで本当に良いのか?』 「戦って、生きて、その先を見たい、今度こそ。」 『…では、この扉の向こうへ。』 目を開くとそれはさっきまでの部屋の扉ではなく 暗やみの中に小さな小さな扉だけがあった。 近づいてみてもやっぱり小さい。 体を丸めなければ入れない程なのに その扉はとても重く、引いても押しても なかなか開かない。 どうしたものかと全力を振り絞り全身で扉を押すと 扉は勢いよく開いた。その勢いのまま、僕は 扉の向こう側へ転がり込んでしまった。 その先はまるで落とし穴だった。 暗闇の中をただ下へ下へと落ちていく。 いつまで落ちて行くんだろう。 まるで深い海の底に溺れたように ゆっくりと沈んでいくようだった。 再び目が覚めたそこは洞窟のようで とても狭く奇妙で悍ましい一本道だった。 頭の隅にどこがで聞いたあの言葉がよぎる。 『前に進み続けるんだ、何があっても。』 何故だろう、それが誰の声かもわからないし 何のためにここいにいるのか知らないのに 僕は絶対に前に進まなきゃいけない気がする。 僕は「諦めない」決意を胸に、前へと走り出した。
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