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その道はとてつもなく長く、そして何もなかった。 音も風も感触も匂いも、何もかも。 それでも僕は無我夢中で走り続けた。 そうするしかなかったから。 いつまで走っても変わらない、 あまりにも長い孤独な時間。 もう前に進むのをやめて戻ろうかとも思った。 足が動かせずに立ち止まったりもした。 何度も、もうここから逃げたいと、 助けてほしいと、そう叫んでしまいそうに なったけれど何度だって堪えた。 これは自分への試練だと思ったから。 だから、ただ進んだ。 あの声のことを思い出すだけでまだ恐怖が襲う。 あんなにも「ここから逃げられたら」と願ったのに それでもあのとき、何かが自分を引き止めた。 逃げるより、戦う、と決めたほうが 少し、心が楽になったような気がしたんだ。 それは今も同じ。 僕は戦う、僕の意志で。 走っているうちに僕は記憶を少しずつ 取り戻していた。 森の匂い、波の音、輝く眩しい光。 その曖昧な記憶だけが僕の希望だった。 どれが現実で、どれが幻想なのか。 これは夢なのか、今僕は何をしているのか。 僕という存在は一体何なのか。 あの 声 の主は誰なのか。 何もわからないけれど 今の僕にできることは前に進むだけ。 しばらく走り続けると恐怖心は薄れてきた。 この先には何があるのだろう。 足は重く、走っても走ってもなかなか進まない。 それでも進み続けたいと思った。 ゴールがどこかもわからないけれど、 光がもう一度差すことを願って。 ようやく遠くの方に小さな光が見えた。
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