1人が本棚に入れています
本棚に追加
4
その道はとてつもなく長く、そして何もなかった。
音も風も感触も匂いも、何もかも。
それでも僕は無我夢中で走り続けた。
そうするしかなかったから。
いつまで走っても変わらない、
あまりにも長い孤独な時間。
もう前に進むのをやめて戻ろうかとも思った。
足が動かせずに立ち止まったりもした。
何度も、もうここから逃げたいと、
助けてほしいと、そう叫んでしまいそうに
なったけれど何度だって堪えた。
これは自分への試練だと思ったから。
だから、ただ進んだ。
あの声のことを思い出すだけでまだ恐怖が襲う。
あんなにも「ここから逃げられたら」と願ったのに
それでもあのとき、何かが自分を引き止めた。
逃げるより、戦う、と決めたほうが
少し、心が楽になったような気がしたんだ。
それは今も同じ。
僕は戦う、僕の意志で。
走っているうちに僕は記憶を少しずつ
取り戻していた。
森の匂い、波の音、輝く眩しい光。
その曖昧な記憶だけが僕の希望だった。
どれが現実で、どれが幻想なのか。
これは夢なのか、今僕は何をしているのか。
僕という存在は一体何なのか。
あの 声 の主は誰なのか。
何もわからないけれど
今の僕にできることは前に進むだけ。
しばらく走り続けると恐怖心は薄れてきた。
この先には何があるのだろう。
足は重く、走っても走ってもなかなか進まない。
それでも進み続けたいと思った。
ゴールがどこかもわからないけれど、
光がもう一度差すことを願って。
ようやく遠くの方に小さな光が見えた。
最初のコメントを投稿しよう!