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春の雨が桜の花びらを散り急がせていた。俺は桜に囲まれた東屋の軒下で、雨に脱がされていく桜の木をボーッと見ていた。
生ぬるい春風は冬の残り香をはらんで時折強く吹いた。小糠雨が風に乱れて俺の頬を濡らした。気持ちいいと思えるには少し温度が足りなかった。
あの時から十年。俺は毎年この時期になると、桜を見るためにこの公園に来ていた。
なんとなく会える気がして。なんとなく会えない気がして。
ポケットから一通の手紙を取り出した。薄いピンクのシンプルな封筒に、同じ色合いの便箋が入っている。
そこにはたった一言のメッセージが書いてある。
ゆっくりと眺めてから、桜の木をもう一度見上げた。
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