第十九章 夜と死は 四

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 そこは暗黒というだけではなく、大気も存在していない。皮膚がピリピリと裂けるようで、目を開けていても閉じても真っ暗になっていた。暫くすると、重力を感じないせいで、上も下も分からなくなる。  こんな暗黒世界を渡り、竜は界を移動する。 「竜…………とても、怖いね」 「そうだな」  近くには他の竜もいる筈なのに、声どころか気配も感じられない。  だが、その空間に慣れてくると、塩家と繋いでいる水の感触が分かってきた。そして、水を辿って移動を始める。 「竜」 「大丈夫」  でも、竜と一緒で良かった。竜がいなかったら、こんな寂しい場所に一分もいられない。  そして、どうして竜が蛇のように長いのか納得できた。長さがある事で、仲間に触れて確認する事ができるからだ。そして、皆が俺を見て溜息を付いた理由も分かった。それは俺が、短いせいだ。  竜は水を伸ばしてゆき、元の界とも繋いでいた。そして、他にも水を伸ばし、それぞれの竜と繋いでいた。  そして水を通して会話も出来る。 「月森さんは、到着までのイメージを作る」  到着をイメージする事で、捜しているものが何なのか見失わずに済む。そして津軽がパワーで突き進み、周囲を牽引していた。 「光が無いと、時間の感覚も鈍る」  既に、数分が経過したのか、数時間が経過したのか分からなくなってきた。 「安在さんも来ていますね…………」 「あれ、陽洋のヘルプはどうなっている???」  でも、確かに安在の気配を感じる事ができた。安在は、群青の竜で、それは深い海の底のイメージだ。そして、心音のような、波音のような振動を発していて、その音を聞くと、とても安心する。  この暗黒の中でも、存在を確認できる竜は、きっと最強に近い。安在もそうだが、月森もイメージで仲間を牽引する。そして、竜は水を飛ばす。 「俺にも出来る事はあるかな…………」 「ありますよ。ちなみに、皆にも、宝珠の位置が見えています」  月森によると、宝珠はこの暗黒の中に在っても、しっかりと存在を示しているという。それが本当なのか確認してみると、黄金竜は移動の最中でも、鼾をかいて寝転んでいると言った。
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