第十九章 夜と死は 四

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 しかし、電話が繋がっただけでも奇跡だろう。  俺の推測が当たっているのならば、塩家がいるのは黒澤の界だ。 「竜、水で電波を辿る。細く糸のように繋なげていって。途切れさせない、凄技で!」 「了解」  無線がダメならば、有線にすればいい。そして、水は界を渡るのだ。 「塩家!!」 『ゲ、水が来た!!』  すると、塩家の声が聞こえてきた。 「塩家、どこにいる??」 『分かっているから、水を飛ばしたのだろう!しかし、こんな方法があるのか…………糸電話???』  糸ではなく水だ。  しかし俺も、水で通信できるとは思っていなかったが、やってみるものだ。 「それで、塩家…………何がどうなった???」  どうして、塩家が異界にいるのか、そして何故、黒澤の界にいるのか、状況が掴めない。すると、塩家も困ったように笑っていた。 『ははははは、困った。まず、そっちに、何人か帰っただろう?』 「帰ってきている………………」  塩家は、吸収している核を、人間に戻す方法を見つけたのだろうか。 『俺の仕事場に黒澤さんが来た。山ほど、チケットを購入してくれて、美容関係のスタッフや関係者に配ってくれた……そこにはテレビ関係者もいた……しかも、楽屋に巨大な生の花が届いた』 「ああ、無下に出来なかったわけね」  塩家は、最初の出来事を教えてくれた。 『黒澤さんは、造った自分の界に引き籠るつもりだから、挨拶に来たと言った』  黒澤は、自分の界に、ある程度のものは運び終えたと言ったらしい。食糧も、生き物以外ならば移動が可能で、数十年分は運んでいるという。  そして、協力者のお陰で植物の種も移動する事ができたので、向こうの界で農園生活をおくるのだと言った。 『黒澤さんは、自分が異界に行くと、この界の住人から記憶が消えてゆくので、きっと、次に会う事はないだろう…………思い出す事も出来なくなると言った』  そうして、後が無いと強調してから、黒澤は塩家にひとつの事を伝えた。 『黒澤さんは、不可説という竜と取引をした。黒澤さんが依頼したのは、自分の界に生命を運ぶ事。不可説は、その方法は竜だと言った』  その竜ならば、生命竜である大知と取引していると伝えると、ならば良かったと不可説は言った。 『不可説は、界の狭間で身体を拾った。それは魂の無い人間だったので、黒澤さんの界に運べる。そして、魂を入れれば、生き物として復活できる』 「…………………………もしかして………………」  すると、塩家は無言になっていたが、頷いている感じがした。 『俺の中にある魂。その肉体は、多くが狭間に落ちて、漂っていた』  そして、全てでは無かったが、多くの肉体を不可説が拾っていた。 「…………魂を返す為に、塩家がそっちに行っているのか……………………」 『俺は人間なので移動できなかった。でも、不可説が短時間ならば、竜の体を貸すと言った』
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