第十九章 夜と死は 四

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「あ、本当だ」  黄金竜は、眠る事で安定できると言っていたが、この姿は人に見せられたものではない。 「でも、こんなに安らかな気持ちで、移動したのは初めてです」  前も後ろも、上下も分からなくなった暗黒の世界で、存在がある事の喜びを知ったという。だが、やはり、黄金竜の怠惰な姿は見せたくない。  俺が必死に黄金竜を起こそうとしていると、はるか彼方に、小さな針の穴のような点を見つけた。 「あ、光だ…………」  見えている方が前という気持ちで、小さな光に方向を変え、ひたすら泳ぐ。  そして、小さな光に引き寄せられるように近付いて行った。  界というのは、この暗黒に在って、光の存在であった。それが、どんなに小さくても、光を見つけた時の喜びは半端ではない。 「生命は光だ………………」  生命は闇の中に在って、光に似ている。その光は、夜の街のように見え、そこに温かみを感じる。そして、光の元に行きたいと願う。 「とても綺麗だ……」  光がこんなに美しいと思ったのは、ここが暗闇のせいだ。宇宙空間で地球を見て美しいを想うのは、きっとこの感覚に似ているのだろう。  そこには、生命が在るのだ。 「あの、光は塩家と繋がっています」  近付いて行ったが、それはとても小さな光で、かなり弱い。でも、青い水の色をしていた。 「塩家……………………」  そして、その界に塩家がいる。
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