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「美しい!!」
塩家は見慣れているが、こうして皆が鑑賞していると、俺もつられて見てしまう。そして、改めて、塩家は見た目だけは抜群なのだと認める。
しかし、ただ美しいと褒めのられるのは、夜の塩家を知らないせいだ。夜の塩家は、爬虫類だ。そのおぞましさは、類を見ない。
「佳樹、諦めろ。彼女達は、上辺だけと知っていて、その上で鑑賞している」
「そうかもしれませんが…………」
安在は、悟りの境地に至ったらしい。だが、まだ俺は認めていない。しかし、彼女達は塩家の鑑賞を続けていた。
「いいわよね………………」
「完璧です………………」
「何処から見ても、完璧…………」
そして、その視線が、ほぼ一斉に俺に向いた。
「………………………………」
「…………??」
「!!……………………」
無言で会話しないで欲しい。
「ふうう…………」
そして、揃って溜息を付くのは止めて欲しい。
「………………まあ、いいか…………」
「そうですね。天然物ですからね…………」
「天然記念物と思っていましょう…………」
塩家の見た目がいいのは知っているので、比較しないで欲しい。そして、別の意味で溜息をつくのは止めて欲しい。
「ねえ、月森の杜にも行ってみない?こことは違う雰囲気だけど、保養になるよ」
「あの、ホストクラブみたいな面々がいる居酒屋ですか?」
「居酒屋ではなく、喫茶店」
月森の杜は、夜にはアルコールも出すが、基本は喫茶店という事になっているらしい。
「店長の月森 深夜さんは、作家みたいよ。でも、全然売れていなくて、生活の為に店をやっているとか……」
「彼も、物凄い美形よね…………」
月森は美形なのだが、気さくな人柄で、親身になって相談事も聞いてくれるので人気だという。
「あの、ゲームキャラのような姿で、生身の人間なのよ」
「奇跡よね」
ここで、少し分かってきたが、吉見が働いている職場は、全員が面食いだ。そして、美形というものを崇めていた。
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