第一章 月森の杜

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「美しい!!」  塩家は見慣れているが、こうして皆が鑑賞していると、俺もつられて見てしまう。そして、改めて、塩家は見た目だけは抜群なのだと認める。  しかし、ただ美しいと褒めのられるのは、夜の塩家を知らないせいだ。夜の塩家は、爬虫類だ。そのおぞましさは、類を見ない。 「佳樹、諦めろ。彼女達は、上辺だけと知っていて、その上で鑑賞している」 「そうかもしれませんが…………」  安在は、悟りの境地に至ったらしい。だが、まだ俺は認めていない。しかし、彼女達は塩家の鑑賞を続けていた。 「いいわよね………………」 「完璧です………………」 「何処から見ても、完璧…………」  そして、その視線が、ほぼ一斉に俺に向いた。 「………………………………」 「…………??」 「!!……………………」  無言で会話しないで欲しい。 「ふうう…………」  そして、揃って溜息を付くのは止めて欲しい。 「………………まあ、いいか…………」 「そうですね。天然物ですからね…………」 「天然記念物と思っていましょう…………」  塩家の見た目がいいのは知っているので、比較しないで欲しい。そして、別の意味で溜息をつくのは止めて欲しい。 「ねえ、月森の杜にも行ってみない?こことは違う雰囲気だけど、保養になるよ」 「あの、ホストクラブみたいな面々がいる居酒屋ですか?」 「居酒屋ではなく、喫茶店」  月森の杜は、夜にはアルコールも出すが、基本は喫茶店という事になっているらしい。 「店長の月森 深夜さんは、作家みたいよ。でも、全然売れていなくて、生活の為に店をやっているとか……」 「彼も、物凄い美形よね…………」  月森は美形なのだが、気さくな人柄で、親身になって相談事も聞いてくれるので人気だという。 「あの、ゲームキャラのような姿で、生身の人間なのよ」 「奇跡よね」  ここで、少し分かってきたが、吉見が働いている職場は、全員が面食いだ。そして、美形というものを崇めていた。
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