第2章

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◆◆◆◆◆  帰る日の朝。  布団の中で目覚めた僕は、ある【重要なこと】を思い出して眉間にシワを寄せていた。 ――― おばあちゃんに会ってもらう計画、あれって達成出来てないままだ  ここへ来た目的を思い出した僕は、帰る前にもう一度説得を試みようと思った。  布団から出て襖をあける。すると、キッチンで朝食の準備をしている怜さんから振り向きざま「お早う」と言われた。その笑顔に射抜かれた瞬間、僕は降参してしまった。  せっかく築いた関係に水を差すようなことはしたくない。こうして仲良くなれたことで良しとしよう――― そんな気分になっていた。  怜さんお手製のホットドックを食べ終わり、紅茶を飲んでる時だった。怜さんから『歩、そろそろ帰る支度をしろ』と言われた。 「近くなんだから そんなに慌てて帰らなくても。夕飯まで ここにいたらいいよ」と、今日は休みで家にいる原さんが言ってくれたけど、僕は「帰ります」と返事した。 「宿題が残っているし、連休後は中間考査がひかえてるんです。早く帰って勉強しないと……」 「そうか」と残念そうな原さんと、「片づけが済んだら送るよ」と微笑む怜さん。そんな二人を見比べながら、僕は ほんわかした気分になっていた。  昔は辛いことがあった怜さんも、今は原さんというパートナーを得て幸福そうだ。その上、仕事も家事もバリバリこなして素敵なマンションで暮らしてて……  帰ったら、さっそく母さんに報告しなくちゃ。怜さんは幸せに暮らしていたよ―― ってね。 「またおいで、いつでも歓迎するよ」そう言ってくれた原さんに別れを告げて玄関を出ると、僕らは地下の駐車場へ向かった。  一昨日とは違った気持ちでエレベータに乗った僕は『寂しい』と感じた。まさかこんな気持ちで帰路につくなんて、ここへ来る時には想像しなかった。  原さんは『いつでも来ていい』と言ってくれたけど、再び遊びに行くなんてこと、あるだろうか? 僕の顔を見る度に おばあちゃんを思い出して怜さんが辛い気持ちになるんじゃないかと思うと気安く来れない気がする。でも、せっかくの知り合えたのに このまま終わってしまうのが残念だった僕は、彼に頼みごとをした。 「LINEの交換をしてくれませんか?」  一瞬きょとんとした怜さんだったが「いいよ」と快く返事してくれ、操作を終えたあとで怜さんのアイコンを満足げに眺めていたら、 「いつでも送って構わないから。返事が遅くなるかもしれないけど気長に待ってくれ」 「いいんですか?」 「来週日本に帰ってきたら連絡する」 「マジ嬉しい、待ってます」  僕は携帯を握り締めると、大切な宝物をもらった子どもの様に喜んでいた。
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