ママ友の戦い

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ママ友の戦い

 アユミのママはユリのママとは最近会ってはいなかったが、連絡を取ってみた。  ユリの家は元々シングルマザーであまり裕福ではなかったが、流石に子供同士でもユリのやり方は少し教育的にも良くないのではないかと考えたのだ。  そこで、勇気を出して、今後ユリにはアユミの持ち物を欲しがらないように言い聞かせてほしいとお願いするつもりだった。  ユリのママは、ユリを育てるために懸命に働いてはいたが、元々の学歴が今時珍しい中卒だったため、普通の会社には努めることが難しく、パートの掛け持ちでユリを育てていた。  アユミのママに呼び出されてきた日も、パート先の弁当屋の制服でやってきた。でも、不思議と以前のようなおどおどした感じがなくなっていた。 『なんだろう。嫌な感じがする。』  アユミのママは話をする前に、何かユリのママからピリピリとしたものを感じた。  ユリのママはアユミのママの言い分を良く聞き、ゆっくりと言った。 「あぁ、その事ね。あなたに無断で申し訳なかったわ。」 「え?じゃぁ、知っていて?どうして止めてくれなかったの?」 「だってね、私はもうシングルマザーではないし、あの家もアユミちゃんももう私の物だからよ。」 「え?どういう事?」 ユリのママは、ポカンとしているアユミのママを見ながら微笑んだ。 「あなたの元旦那様は私と結婚しているの。だからあなたが今住んでいる家はこれから私が住む家なのよ。アユミちゃんの親権ももちろん私とあなたの元旦那様。あぁ、今は私の旦那様だけど、そちらに移っているのよ。」  何という事だろうアユミのママだけが話に入れてもらえないまま色々と事が進んでいたようだった。 「アユミママ、あなたったら仕事に復帰できたのが嬉しくて家の事ほったらかしていたわよね。アユミちゃんも一年生の頃からママが居なくて寂しいって言っていたのに聞いてあげなかったし。あぁ、もうアユミママは私ね。」 「アユミちゃんが好きだと思ってあなたと買いに行っていた服や文房具もあなたが勝手に選んで学校で目立つようなものを買ったのよね。アユミちゃんは逆目立ちしてクラスではいじめられていたのに。それも気づかずにいた。」 「あなたの旦那様やアユミちゃんとの相談に乗っているうちにこんな風になってしまって私も悪いとは思っているわ。」 「あなたの家の家事も結構やっていたのよ。お洗濯とか、お掃除とかも。」 「もしかして旦那さんがやってくれたと思っていたのかしら?」 「でも、あなたがやっとユリがアユミちゃんの洋服を着ていることに気づいて良かったわ。食事も私が1品は追加して作っていたのにそれにも気づかないなんて。」 「学童が終る前からそういう事って結構あったのに、あなたは自分の仕事に夢中で気づかなかったんですもの。」 「一応、あなたが気づくまでは今までの生活を送りましょうと私が提案していたのよ。」 「他人(ひと)から言われるのではあなたも納得できないかと思ってね。」  この日の為に常に持ち歩いていたユリママは、自分とアユミママの元夫との婚姻届けをアユミママに見せた。  既にアユミママではなくなった女が呟くように声をやっと出した。 「騙していたのね。」 「気づくのが随分遅すぎたけどね。」 「一応、あなたが住むのは今私が住んでいるアパートで良いでしょう。今月の家賃は払ってあるから。名義もあなたに変更してあるわ。あなたの元旦那様が手続きしてくれたの。」 「今日から私はあなたの家に帰るから。あなたは明日、子供達がいない間に自分の荷物をまとめて引っ越して頂戴ね。」  騙されたというにはあまりにも大きな出来事に呆然としながら、見慣れたユリの住んでいたアパートにトボトボと向かうアユミの元ママだった。 【了】
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