誕生した王女様

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誕生した王女様

 北の寒い寒い土地に、ゴールドプルシアン国はあった。  全ての国民が色の濃さは違えど、サラサラの金髪を持ち、瞳の色もそれぞれ濃さや色合いが違うが、それは美しい蒼い眼をもっている。そして北の国の人たち特有の透明な白い肌をしていた。  男性は皆、身長も高く180cm以上。しかし、寒さゆえか、太っているものはおらずに皆スラリとしていた。  女性も皆、身長は160cm以上。そして、やはり皆、スラリとしていた。  国民は皆一様に髪を長く伸ばし、男性は襟もとで一つに結び、女性は綺麗に結い上げていた。生まれてから18歳までを一つの区切りとして、一度髪を肩の長さまで切る。  この国の国民の髪は特殊な糸のような構造をしており、織物にして輸出すると、他国にとても良い値で売れるのだった。  国で織っている織物工場には若い者もいるが、主に年を取って、農業や牧畜の作業が大変になった人たちが携わっていた。  生まれてから18年目の最初の髪は特に貴重で柔らかく、シルクとも比べられないような肌に吸い付くような柔らかさを持った物に仕上がる。  そして、それ以降に切った髪で織った布もシルクのような、しかし、手触りはさらりとした何とも言えない織物に仕上がるのだ。    生まれてから18年目の髪で織った織物はこの国で、唯一の、一番の高値で入れる輸出物であり、その後の18年間で伸ばした髪も、勿論貴重な輸出物である。  それ故、この国の人々は髪をとても大切にし、国の中で採れる貴重なマルーンという木の実から取れたオイルで髪を洗うのだった。  このオイルで先発すると、少し泡立ち、汚れも落としてくれながら簡単にすすげて、かつしっとりと髪を覆ってくれるのだ。そして、乾くとサラサラな美しい金色の髪が輝くのだ。  皆、この髪で国の外貨を得ていることが分かっているので、結婚すると競って子どもを産んだ。そうしないと外貨を得られる術が無くなって国が廃れていってしまうから。  この国では特に食べ物では輸出入に頼る必要はないのだが、周囲の国との同盟は、安全の為にも保ちたいし、国では製造していない陶器や、ガラス製品は獲得した外貨で賄っていた。  ゴールドプルシアン国は、一つの国としてはとても小さいが、国土は結構広い。そして、科学の力により、国全体が大きなドームに包まれている。  ドームの国の中にさえいれば、北の地方でありながらも、寒さにさらされることもなく、マルーンを育てたり、国民が食べるものも、大抵の植物を育てることもできた。  おおきな農場が各地に転々とし、野菜や、肉、卵等は農場主が近くの市場に直接下ろすので品質が良く、安いものがいつでも手に入った。  そういったものは自給自足で他の国に輸出することもなく、輸入に頼ることもなかった。  もちろん、織物を職業にする家も多くあり、そういった家は国に織物を納め、国から直接お金を貰っていた。  そうやって、一つの国として、バランスの取れた暮らしやすいとても良い国であった。  王様は国民の血が濃くなりすぎ、遺伝子による異常が出ないように、外からの人の移住も認めていた。ただ、そのための条件は必ずゴールドプルシアン国の人間と結婚することだった。  そうすると、愛を交わすうちに、移住してきた人との間に生まれた子供は、移住してきた相手がどのような容姿であろうと、必ずゴールドプルシアン国の特徴を持った子供が生まれるのだった。 *****  さて、この国に久し振りにおめでたい事が起こった。  ゴールドプルシアン国のゴールド7世の王様と王妃様の間にお二人目のお子様が生まれたのだ。    王妃様は王様と結婚した後は一度も髪を切らずに、とても美しく豊かに髪を結い上げていたし、王様は生まれたときからの髪を一度も切らずに太い三つ編みにして、長く後ろに垂らしていた。  先に跡継ぎの王子様がお生まれになって5年が経っていた。    長子である王子様は、明るく輝く金色のサラサラの髪を持ち、明るい蒼い眼をしたとても美しい王子様だった。顔立ちは王様に似て眼は凛々しく力強く、高い鼻筋に形の良い唇を持っていた。そして、性格は優しい中にも王様を彷彿とさせる物言いをし、幼いながらこれから国を背負ってゆくのに頼もしさを感じさせる風貌の王子様だった。  跡継ぎの王子様の時にはお生まれになって一か月が経つ頃には国民にもお城のバルコニーから王子様をお披露目になり、王国の側近たちはお城でのパーティーにも呼ばれ、皆で王子様の誕生をお祝いしたものだ。    王女様がお生まれになってひと月が経つ頃、国民はそろそろ王女様のお披露目があるのではないかとか、パーティーが開かれるのではないかとか噂をするようになった。  ところが、一向に新しくお生まれになった王女様のお披露目はなく、そのうちに嫌なうわさが流れてきた。  王女様は生まれてすぐに亡くなられた。だからお披露目などないのだ。  王女様は茶色のカールした髪で目も茶色。そして、とてもふっくらしていらっしゃる。だからお披露目できないのだ。    王室内でも王妃様付の侍女以外は王女様の見た目の有無は知らず、お産を手伝った医者も看護師も王室から出てこずに、そのまま王女様付きの医師や看護師になっていた。        
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