王女様のお披露目から

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王女様のお披露目から

 シルビア王女が3歳を迎える頃、もうゴールドプルシアン国では二番目に生れた赤ちゃんの噂など聞かなくなっていた。おそらく死産だったのだろう。国民はそう思いながらもそれならば国葬が行われるはずなのに。と、心の中では思っていた。  そんな時、王様からのお触れが廻ってきたのだ。 『第二子、シルビア王女のお披露目の会をとり行う』  3歳になったシルビア王女は銀に近い金髪も大分伸び、サラサラとしたこの国独特の髪質を持つとても美しい髪を肩になびかせ、お披露目の為の白い豪奢なレースのドレスを身にまとい。お兄様のゴールド8世と手をつないで国民が待つ広いバルコニーにトコトコと、可愛らしく、しっかりとした足取りで出ていらっしゃった。  流石に直射日光の下にお出しするわけにはいかないので夕方の日が弱くなった時間帯、ほんの短時間大きな日傘に守られてのご登場だった。  お兄様の手を放し、国民に向かって小さな手を優雅に振って見せた。  国民は初めてアルビノを見たので王女様のあまりの白さに驚いたが、 『あるとき、白い輝きを持った娘が生まれるであろう。その娘は国に富みをもたらし、国はますます繁栄するであろう。』  と、歴史で習ったことを思い出し、大きな歓声でシルビア王女の誕生を歓迎した。  その後、王様の側近たちを招いて、改めて城の中でシルビア王女のお披露目会を開いたが、室内のライトでもあまり強い光に当たると王女の白い肌はすぐに火傷してしまうので、王女は天蓋から布を垂らした中の椅子に座り、王様の側近たちに 「今日は良くいらしてくれました。」 「これからもよろしく。」  と、お小さいながら立派に挨拶をした。その時にシルビア女王を近くで初めて見た側近たちはそのあまりの白い輝きに驚き、その美しさと、聡明なお言葉に、心からの忠誠を誓うのだった。  さて、王女様はお城の中で医師たち共に過ごし、学問も徐々に身に着けて行った。外に出ることは体質上かなわない事だったので、ゴールドプルシアン国の跡取りは文句なく兄のゴールド8世が継ぐことになっており、ゴールド8世は簡単には外に出られない美しい妹の為に、王女が温室に入る時には光を遮れるようなカーテンをつけた、いつも花が咲く温室を作った。  温室には専用の庭師を置き、王女さまが出る時のカーテンの管理なども任された。  王女は大層この温室がお気に入りで、色々な植物に触れるうちに植物に興味を持ち、植物の分野のお勉強にも力を入れるようになった。  元々この国にはマルーンという髪を健やかに保つオイルが取れる実がなる作物があった。王女はこの作物に関心を持ち、さらに精製したらどうなるのかを実験するまでに成長した。  王女はこの頃18歳。シルバーゴールドの髪は美しくサラサラと伸びて、一般の家庭の娘だったら最初の一回目の断髪を行う時期だった。  ゴールドプルシアン国の髪の織物は今でも人気があったのだが、いくら美しいものだと言っても、いつも同じ織物では世間は段々と飽きてくるものだ。  取引する側の国からの値下げを申しだされたりして、国の財政は少しずつ苦しくなってきていた。国の中で自給自足はできるものの、やはり外貨は必要にである。  ゴールド7世と王妃様はシルビア王女につきっきりで外貨が下落していることは分かってはいたが、あまり国政に力を入れなくなっていた。  それをみていたシルビア王女の兄、ゴールド8世は父母が常に妹と共にいる事にも不満を持ってきていた上に、外貨が下がってもあまり気にしないゴールド7世が国王にふさわしくないと思い始めていた。  しかし、シルビア王女は国政のお勉強もしっかりなさって、外貨が下がっていることに心を痛めていた。  そうするうちに王女は、自分の髪を切って、生まれて初めて髪を切った他の国民たちの髪と一緒に織り込むのはどうかと兄であるゴールド8世に相談した。  兄のゴールド8世はたった一人しかいないお世継ぎという事で、多少甘やかされてお育ちになった。特に外貨の問題はお小さい頃には発生していなかったので、ご自身でどうしたら外貨をれられるかを考えることができなかった。  そんな時に、このシルビア王女からの提案だ。これはいけるんじゃないかと胸をワクワクさせた。  王様のゴールド7世とお后様は勿論反対したが、シルビア王女は 「私はこんな体に生れて、他の何にも国のお役に立てないのですから。」  と、強い意志を持って、ご自分の美しいシルバーゴールドの髪を切らせ、他の生まれて初めて髪を切った国民、つまりご自身と同じ年の国民の髪と合わせて、織物を作らせた。  そうすると、王女の髪の量は織物全体の中ではほんの少しであるのに、今までにない美しい輝きと触り心地を持った織物が仕上がったのだ。  この織物は国外に出すとこれまでの倍の値段をつけていたのに飛ぶように売れ、ゴールドプルシアン国には久しぶりに沢山の外貨が入ってきたのだった。 『あるとき、白い輝きを持った娘が生まれるであろう。その娘は国に富みをもたらし、国はますます繁栄するであろう。』  この言い伝えはこういう事だったのだな。少し思慮の浅かったゴールド8世はそのように解釈し、シルビア王女を国の繁栄の為なのだからと、自分の物のように扱い始めた。    
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