国の存続1

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国の存続1

 シルビア王女が軟禁されて10年が経った。  兄のゴールド8世の生活はどんどん荒れて、侍従たちとも意見が合わず、増々、信頼を失っていった。  10年の間にシルビア王女はあの精製したマルーンのオイルをご自身の白く輝くお顔にも塗って、カーテンや簡単な日よけがあれば、長時間でも温室にいられるようになっていた。  ただ、アルビノの性質上メラニンが増えて皮膚が丈夫になるようなことはなかったので、その点は気を付けて火傷をしないように肌につけるオイルの量や外に出る時間の調整をしていた。  シルビア王女は28歳。結婚もしないまま、このまま年を取られていくのかと、父のゴールド8世と母の元王妃様は嘆くのだった。  実務を担っているはずのゴールド8世は、お酒のせいで体を悪くして、寝込む日が増えていた。そんな状態なので、この国王と結婚しようと言う、外の国の王女様たちは誰もいなかった。  このままでは、国が滅びてしまう。  侍従たちは政権の交代を望むようになっていた。 *****  兄の体調が良くないことを聞いたシルビア王女は、侍従たちに良いお医者様を探してくれるよう頼んでみた。しかし本人がお酒を全くやめる気がないのでお医者様を探しても無駄であろうと侍従は言った。  そのことを聞くと、ため息をつき、 「国の為になるならと、私の髪を差し出しましたが、逆の結果を招いてしまったようですね。」 「お兄様には王座を降りていただきましょう。」  と、きっぱりとお顔をあげて侍従に告げた。 「王位はもう一度お父様のゴールド7世に戻っていただきましょう。」  シルビア王女がそういうと、ゴールド7世は 「シルビア、一度王位を譲った者は二度と国王の座に戻ることはできないのだ。」 「それに、私は幽閉の間に大分年も取ってしまったし、気力ももうないのだよ。」 「どうだろう、シルビア、お前が女王となってこの国をもう一度国民が安心して暮らせる国にしてはもらえないだろうか。」  シルビアは考えた。 『この見た目の異様さを他の国の王様たちはどう思うかしら。』 『王族を継ぐためのお勉強はこの幽閉の間にお父様から十分に教えていただけたけれど。』  シルビア王女は美しいと言ってくれる国民や侍従や侍女たちは生まれてからずっと面倒を見てくれた侍従や侍女であり、自分が王女だから言っているのであって、自分がアルビノであることを本当は恥じていたのだ。  だから少しでも外に出られるようにマルーンのオイルの精製に力を注ぎ、少しでも国王の役に立てることを望んでいたのだ。  自分が女王になるなんて思ってもいなかったのだった。  3日ほど、シルビア王女は誰にも会わずに考えた。そして4日目に、仲良しの庭師とその息子のローレルにゴールド7世に言われたことを話し、どうしたらよいか相談した。庭師は大切な相談と聞いたので、他に侍従も連れてきていた。 庭師は 「後を継げるのは王女様しかいないと思いますがね。」  と、自身の意見を述べた。ローレルは言葉を発せずに目で頷いた。  連れてこられた侍従も 「シルビア王女様が継いでくださるのなら、国民も侍従たちも誰も文句は言いますまい。」  と、大層興奮気味に言った。  シルビア王女は 「では、私の一番の悩みを話すので正直に答えてくださいね。」 「私のこの容貌で外の国の方々は気味悪いとお思いにならないでしょうか?」 「それにマルーンのオイルがあれば日陰であれば温室でも過ごせるようになりましたけれど、王室の仕事が私に務まると思いますか?」  庭師と侍従は口を揃えて 「王女様の容貌に関しては美しいと言う他例えようがございません。」 「皆が嘘を言っているとお思いだったのですか?」 「そもそも王室の仕事は室内でするものです。マルーンのオイルの力を借りれば他国の方がいらっしゃる時には、少し明るい室内でも仕事の時間に気をつければ十分にできると思います。」  そんな相談をしていた時に病で痩せこけた国王のゴールド8世が地下室に降りてきた。  侍従や、庭師、シルビア王女は一目見て、 『あぁ、これではもう国の為の仕事は無理だ。』  と、感じ、皆一様にゴールド8世の後ろに死神を見たのだった。  それから3か月ほどでゴールド8世はこの世を去ることになった。まだ30歳の若さだった。  そして、国王の崩御による、喪に服す1週間が始まった。  元々評判の良くなかった国王であり、これまでの財政を切り崩したとはいえ、国民が貧困にあえぐことなく暮らしてこられたのは若干20歳から王政を担ってきたゴールド8世がいたからなのだ。国民は複雑な思いを抱きながらも喪に服したひそやかな生活を送った。  葬儀には軟禁されていた前国王ゴールド7世とその王妃様、また、妹君のシルビア王女も参列された。  葬儀は昔からの例にもれず、日が沈んでから行われたので、シルビア王女も参列できたのだった。      
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