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『お兄ちゃん、今日誕生日でしょ? なんか予定ある?』
大学生の妹からメールが届いたのは、早朝のこと。
特に面白いテレビ番組もなく、一人音楽を聴きながら朝飯を食べている時だった。
『特になし』
内心、舌打ちしつつそっけない文面で返信する。
『あれ? ないの? あやめさんは?』
『来週会う予定。今日は会わない』
『え? 会わないの??? お兄ちゃん、誕生日なのに???』
その「???」はやめろ。
『お互いそういうのには無頓着なんだよ。記念日に何かお祝いするとか』
『なーんだ。せっかくあやめさんとショッピングできると思ったのに』
その言葉と同時に、がっかりした表情の絵文字を大量に送られてきた。
妹は彼女と仲がいい。もしかしたら恋人である僕よりも仲がいいかもしれない。
『残念だったな』
『じゃあさ、お兄ちゃん買い物付き合ってよ。イオネモールタウン』
は?
僕はスマホを眺めながら思わず固まった。
『ちょっと前に見に行ってさ。買いたいやつあったんだけどお金なくてあきらめたの。昨日バイト代入ったから買おうかなーって思って。本当はあやめさんに見てもらいたかったんだけど、来ないんじゃしょうがない。お兄ちゃんで我慢する』
我慢てなんだ、我慢て。
いや、それよりも……。
『ちょっと待て。なんで自分の誕生日におまえの買い物に付き合わされなきゃならないんだ』
『だって暇でしょ?』
ストレートな言葉に胸がズキッと痛んだ。
確かに暇だ。誕生日とは思えないほどに。
『お礼にお兄ちゃんの欲しがってた回転式のコミックラック買ってあげるから』
『いや、別にいらない』
『いらないの!? 欲しがってたじゃん。ラックが回転するから、しまってあるコミックがすぐ取り出せるって。本当にいらないの???』
だからその「???」はやめてくれ。
『そこまで欲しいってわけじゃないし。あれば便利だなーくらい』
『じゃあ欲しいんじゃん! 喉から手が出るほど欲しがってんじゃん!』
『喉から手は出てない!』
『ねえお願い、付き合ってよー。売り切れちゃうかもしれないんだよー。一人でイオネなんて行けないよー』
一人で行けよ、と思ったものの妹の頼みを無下に断るのも気が引ける。
可愛い可愛い(別にたいして可愛くはないが)大事な妹が泣いてすがってるのだ(泣いてないだろうが)。
行ってやらないこともない。
第一、せっかくの誕生日に一人でゴロゴロ家にいるなんて切なすぎる。
『わかったよ、付き合うよ。その代わり、回転コミックラック買ってくれよ』
『わーい、お兄ちゃん大好き』
僕が断ることなんか絶対にないだろうと踏んでいたのだろう。すぐに返信がきた。
大好きのあとに大きなハートマークが入っていて、僕はクスリと笑った。
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