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いや、それよりもだ。
これはまずい、非常にまずい。
僕の座るこの位置は逃げ場がない。
歌やダンスが始まった瞬間、その場に居合わせた無関係の人々がこぞって離れていった。
僕はといえば……。
歌い手やダンサーにはさまれて身動きが取れない。
そもそも、テーブルが邪魔だ。
突然のパフォーマンスに、周囲から客が集まってきた。
皆一様にスマホを取り出して写メを撮っている。
ていうか、あれ?
僕、この一員だと思われてる?
どこからともなく管弦楽団まで登場し、イオネモールタウンのこのフリースペースがオーケストラの場へと変化した。
華麗なダンスが広がり、ついには僕も立ち上がって彼らの動きに合わせて踊り出す羽目となってしまった。
一刻も早く抜け出したいのに、抜け出せない。
ヤバい、マジでヤバい。
そうこうするうちに、ダンサーたちが一気に周囲に集まり出してきた。
すでに抜け出す機会を失ってしまった僕は、とりあえず動きに合わせて踊りまくる。
幸い激しいダンスでもないし、みんな動きがバラバラなのでなんとか誤魔化しがきいている。
ダンサーたちはそのまま、さっきまで僕が見つめていた女性のほうへと向かっていった。
女性は女性できょとん、とした顔を向けている。
そりゃそうだろう、いきなりこんな場所で多くの人たちが演奏やダンスをはじめたんだから。
一緒に踊ってる僕ですら、たぶんおんなじ顔をしているはずだ。
ダンサーたちはジリジリと女性のまわりを取り囲んでいくと、おもむろに全員が跪(ひざまず)いた。
慌てて僕も跪く。
なんだ?
何が起ころうとしてるんだ?
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